サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬アベマシクリブは、ホルモン受容体(HR)陽性かつHER2陰性の手術不能・再発例や再発高リスク例に対する術後薬物療法で用いられる新しい乳がん治療薬である。昭和大学乳腺外科講師の増田紘子氏らは、西日本がん研究機構(WJOG)の支援を受け、アベマシクリブによる下痢に対するビフィズス菌整腸剤(プロバイオティクス)の予防効果などを評価する第Ⅱ相非盲検ランダム化比較試験MERMAIDを実施。アベマシクリブを服用中の乳がん患者53例において、約半数以上に中等症以上の下痢が認められたとBreast2023; 71: 22-28)に報告した。

下痢はアベマシクリブで最も一般的な副作用

 アベマシクリブで最も多い副作用としてアベマシクリブ誘発性下痢(AID)があり、患者の80~90%に見られる。AIDの悪性度は低いものの、患者のQOL低下の一因となる。止瀉薬としてロペラミドが用いられるが、ロペラミドが誘発する便秘も患者のQOLを低下させるため、便秘を引き起こすことなくAIDに効果を示す治療法の確立が待たれる。

 プロバイオティクスの安全性と有効性を評価する臨床試験が幾つか行われ、化学療法および放射線療法による下痢を改善するという結果が報告されている。またTMはカルシウムとカリウムに作用する非競合的なムスカリン拮抗薬として胃腸粘膜のチャネルに作用し、平滑筋収縮を誘導してオピオイド受容体に緩やかに結合して下痢症状を止めることが知られる。

 MERMAID試験の対象は、HR陽性かつHER2陰性の局所進行乳がん患者のうち、外科的切除不能または転移性病変を有する20歳以上の女性53例。整腸剤使用群25例(うち24例は内分泌療法+アベマシクリブ+プロバイオティクス、1例は最初の2週間プロバイオティクスを投与せず)と対照群28例(内分泌療法+アベマシクリブ+必要に応じてロペラミドを投与)にランダムに割り付け、28日間追跡した。2019~20年11月に53例が登録され、肝機能障害が認められた2例が試験を中断した。

止瀉薬による対症療法、依然として不可欠

 試験の結果、プロバイオティクスとTMを治療に加えたことによる好中球の減少や貧血などの血液毒性増加および口内炎などの非血液毒性増加は認められなかった。

 一方で下痢は整腸剤使用群で84.0%、対照群で89.3%、中等度以上の下痢はそれぞれ56.0%、53.6%に見られた。いずれの群においても下痢の改善は認められなかった。また便秘は整腸剤使用群で16.0%、対照群で10.7%に見られた。症状尺度では両群とも下痢の重症度が最も高く、次いで食欲不振、倦怠感が続いた。下痢の顕著な悪化を経験した患者の割合は、整腸剤使用群65.2%、対照群70.8%であった。

 増田氏らは今回の試験の限界として、プロバイオティクスの投与群と非投与群で比較がされなかったことや治療および追跡期間が28日と短かったことなどを指摘した上で、整腸剤によるAID予防効果は乏しく、ロペラミドによる支持療法が依然として不可欠であると結論している。

服部美咲