こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情
第10回 遠隔転移なら薬物療法が基本
乳がんの進行抑え、QOLの維持・改善も目標に 東京慈恵会医科大の現場から
初めての発症(初発)である乳がんの多くは治癒します。治癒とは病気が体から無くなり、再発せずに治ることを言います。しかし一部の乳がんは再発してしまいます。
がんの再発には、手術した場所の近くに再び出てくる「局所再発」と、がん細胞が血管やリンパ管を通り、他の臓器に流れ着いて増殖する「遠隔転移」があります。乳がんでは、特に骨や肺への転移が多く、肝臓や脳に転移することもあります。
乳がんの薬物療法は発展が目覚ましく、治療効果も日々改善されていますが、全身のがん細胞を完全に消し去ることは、いまだに困難です。そのため、転移乳がんの治療は、「生存期間を延長すること」と「生活の質(QOL)を維持・改善すること」を目標にします。
◇進行具合はさまざま、薬の選択肢も多様に
再発・転移した乳がんは非常に多様で、病状の進行具合や推移も患者によってそれぞれですが、治療に使える薬もたくさんあります。患者の状態や治療法ごとの過去の研究報告(エビデンス)、患者自身の希望などを総合的に考えながら治療を決めていきます。
中でも重要なのは、乳がん細胞の活動に影響を与える女性ホルモン受容体やHER2(ヒト表皮成長因子受容体2=ハーツー)タンパクが患者のがん細胞に出ている(陽性反応)か、大きな肝転移や肺転移など命に関わる転移がないかどうかです。
特に、ホルモン受容体が陽性(ルミナル型)かどうか、HER2タンパクが陽性(HER2型)かどうかといった乳がんの性格(生物学的特性)は、薬の治療効果を予測する上で非常に重要です。
また、乳がんの進行が早くて緊急治療が必要な場合は、たとえ副作用が強くても、強い薬でしっかりと病気を押さえ込むことが求められます。逆に、進行がゆっくりで治療を慌てる必要がない場合は、副作用が少ないマイルドな薬を使っていく方がQOLを維持できます。
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(2020/05/18 07:00)