日本の認知症有病率は欧米と比べ上昇傾向にあり、2025年には約700万人に達すると推計されるが、予防法および治療法は確立されていない。フィンランドにおけるFINGER研究(Lancet 2015; 385: 2255-2263)をはじめ、海外の幾つかの研究では生活習慣の改善など多領域にわたる介入が認知症の進展抑制に有効との報告はあるものの、有意差はわずかで、国内の研究はほとんどない。国立長寿医療研究センター(NCGG)理事長の荒井秀典氏らは、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センター、SOMPOホールディングスと共同でランダム化比較試験J-MINTを実施。軽度認知症患者に対する多因子介入による認知機能低下抑制効果を複合的に検証した結果を、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2023、7月16~20日)で発表した。

主要評価項目は18カ月時における認知機能コンポジットスコアの変化量

 J-MINTの対象は、NCGGが開発した認知機能評価システムNCGG-FATで認知ドメインに1個以上の低下が認められた65~85歳の軽度認知症患者531例。全例に血液検査認知症関連バイオマーカー検査、MRIまたはCT検査を行い、介入群(265例)と対照群(266例)に1:1でランダムに割り付けた。

 介入群には、リストバンド型活動量計、セルフモニタリング用ファイル、タブレット端末を配布し、①血管危険因子(糖尿病高血圧、脂質異常症)の管理、②運動教室および身体活動のセルフモニタリング、③栄養学的指導および相談、④認知トレーニングによる介入-を実施。対照群には2カ月ごとに健康関連情報を提供した。

 試験開始後6、12、18カ月時に認知機能、全身状態、日常生活動作(ADL)、服薬状況などの老年医学的評価に加え、血液検査認知症関連バイオマーカー検査、MRIまたはCT検査を実施し、認知機能低下抑制効果を複合的に検証した(図1)。

図1.J-MINT研究の概要

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 主要評価項目は、18カ月時における全体的認知機能(Mini-Mental State Examination)、記憶(ウェクスラー記憶検査、Free and Cued Selective Reminding Test)、注意(Digit Span)、実行機能/処理速度(Trail Making Test、Digit Symbol Substitution Testなど)から成る認知機能コンポジットスコアのベースラインからの変化量、副次評価項目は6、12カ月時のコンポジットスコアの変化量、6、12、18カ月時のコンポジットスコアを構成する各認知機能検査の変化量、6、18カ月時の血液バイオマーカー、ADL、フレイルの変化量などとした。

apoEε4保有者で有意差

 検討の結果、18カ月時における認知機能コンポジットスコアのベースラインからの変化量に、両群で有意差は認められなかった(平均差0.047、95%CI -0.029~0.124)。

 しかし、アルツハイマー病の遺伝的危険因子であるアポリポ蛋白(apo)Eの対立遺伝子ε4(apoEε4)を保有する125例に限定したサブグループ解析では、対照群(54例)と比べて介入群(70例)で認知機能が有意に維持されていた(平均差0.164、95%CI 0.011~0.317、P<0.05、図2)。

図2.apoEε4保有者における多因子介入による認知機能低下抑制効果

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(図1,2ともに国立長寿医療研究センタープレスリリースより)

 さらに、介入群のうち運動指導プログラムへの参加率が70%以上の例(181例)では、70%未満の例(34例)、対照群(218例)と比べて、認知機能、栄養バランス、血圧、BMI、身体組成(脂肪と筋肉の量)、運動機能(歩行速度、5回椅子立ち座り時間)などの改善が認められた。フレイルの割合も対照群と比べて有意に少なかった(1% vs. 8%、P<0.05)。

 以上の結果について、荒井氏らは「apoEε4保有の軽度認知症高齢者に対する多因子介入プログラムは、認知機能の低下抑制に有効であることが示された。また、プログラムへの継続的な参加により認知機能や運動機能が改善すること、フレイルの予防につながることも示唆された」と結論。「今後、持続可能な認知症予防サービスの開発への貢献が期待される」と展望している。

服部美咲