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高齢化する糖尿病患者
~3分の2が65歳以上~ 第6回

 前回までは糖尿病の合併症について解説しました。今回は糖尿病と高齢者の話をします。近年では日本人が若返っていて、30年前の65歳が現在の75歳に相当すると考えられています。そして今や人生100年時代、それに伴い、糖尿病患者の平均年齢も上昇し、2001〜2010年の10年間の日本人の糖尿病患者の平均年齢は男性が71.4歳、女性が75.1歳で、その前の10年間に比べ、男性で3.4歳、女性で3.5歳延びたことが報告されています。さらに、30年前の調査と比べると、男性で8.3歳、女性で10.2歳延長しています。

 これには糖尿病、ならびに合併症に対する治療の進歩、がん治療の進歩などが要因と考えられています。現在では糖尿病患者の約3分の2が65歳以上であるとも報告されています。今回は高齢糖尿病患者が特に気を付ける事に関して解説します。若い方には自分の将来の事、あるいは両親の介護に関して目を向けていただければ幸いです。

健康状態や薬剤で異なる血糖の目標値

 ◇昏睡や感染症重篤化の危険

 まず、高齢者糖尿病の定義ですが、65歳以上で糖尿病に罹患(りかん)している方が該当します。その中でも75歳以上または、既に合併症などに罹患し、臓器の機能低下などを伴っている65歳以上の方は若い方と比較してさまざまな注意が必要だと考えられています。

 若年者の糖尿病治療は、血糖・血圧・脂質のコントロールを中心に、動脈硬化疾患のためにメタボ・肥満対策が主になっています。一方、高齢者は脱水や感染症を引き起こしやすく、それを契機に高血糖昏睡(こんすい)に陥ったり感染症が重篤化したりする事もあるので、それを避けるための治療が中心となります。しかし、加齢に伴う腎機能低下もあり、低血糖など薬剤による有害事象も起こる頻度が増えますので、同時にそちらにも注意が必要になります。特に低血糖は、冷や汗や動悸(どうき)などの典型的な症状だけでなく、めまい、頭や体のふらつき感などさまざまであり、また無自覚の時もあります。低血糖はQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)に悪影響を及ぼしやすく、さらに重症低血糖(用語説明参照)になると、転倒や骨折はもとより、認知症に関連して心臓疾患などの死亡の危険因子になるとも報告されています。そのため、血糖値の目標も若年者の基準と違い、患者の健康状態や使用している薬剤によってHbA1cの目標値が異なっています。

 ◇「標準体重」から「目標体重」へ

 高齢者は低栄養になりやすい事も特徴だと言えます。そのため、痩せたり、BMI(body mass index)が低い数値になったりしやすいのです。低BMIも死亡リスクの上昇やフレイル・サルコペニア(用語説明参照)の発症進展につながることから要注意です。そもそもBMI値は男性では60歳代、女性では70歳代から徐々に低下し始める事が報告されています(20年、厚生労働省)。糖尿病患者の場合は食事摂取量の問題だけではなく、インスリンの分泌低下なども要因となっていると考えられます。そのような背景もあり、従来「22」を基準として使用されていた「標準体重」は、総死亡率が最も低いBMIを基に年齢に応じて算出する「目標体重」へと変更されています。

年齢に応じて算出される「目標体重」

 ◇労作で異なる摂取カロリー目標

 それに伴い、摂取カロリー目標も若干変わります。もちろん、上記に合わせて現在の体重を無理して増やしたり減らしたりする事は避けるべきです。また時には、減量のためカロリーを減らしたり、フレイル・サルコペニア予防のためにカロリーを増やしたりする場合もあります。

 フレイル・サルコペニアの予防には、適度なレジスタンス運動(爪先上げ、かかと上げや軽いスクワットなど)に加えて、重度の腎障害がない場合であれば、積極的なタンパク質摂取も重要です。例えば、目標体重が60kgの場合は、1日の摂取量の目安は「60×1.2=72g」となります。タンパク質摂取に関しては、さまざまなサイトやアプリもありますが、食品交換表などが参考になります。このあたりは主治医とも相談してみると良いでしょう。また、高齢者は、脳卒中などの動脈硬化性疾患、心不全、腎不全を起こしやすい、あるいは既に起こしている事も多くあるかと思います。年齢的な味覚の変化もあります。特に塩分摂取過多になっている場合もありますので、塩分制限も重要となります。

労作の段階と摂取カロリー目標

 認知機能の影響する栄養素として報告が多いものでは、ビタミン類(ビタミンC、D、E)や脂肪酸などがあります。また、日本では緑黄色野菜などに含まれるビタミンB2の摂取不足が認知機能低下と関連している事が報告されています。バランスの良い食事で野菜や魚を取ることをお勧めします。

 いずれにしても高齢者の治療は、従来の合併症治療に加えて、加齢により引き起こされる生理的な老化に対して個別に健康状態を評価しながら進めて行く事になります。また、患者本人への社会的サポート(介護保険・訪問医療など)の積極的な利用も重要となります。

 ◇用語説明 重症低血糖 「回復に他の人の助けが必要な低血糖」です。重症低血糖を起こすと、意識が遠くなったり、昏睡やけいれんなどの重い症状が表れたりします。自分では対処できなくなるため、家族や周りの人の助けが必要となります。

 ◇用語説明 フレイル 加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱(ぜいじゃく)性が出現した状態です。一方で、適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態でもあります。

 ◇用語説明 サルコペニア  加齢や疾患により筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、つえや手すりが必要になるなど「身体機能の低下が起こる事」を言います。(了)

 ▼坂本 昌也(さかもと・まさや)

 医師 医学博士

 国際医療福祉大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。1997年、東京慈恵会医科大学を卒業。専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では予防医学の観点から糖尿病患者の研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。「最強の医師団が教える長生きできる方法」、「血糖値バイブル」など著書多数。糖尿病治療の啓蒙活動にも力を入れている。

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