新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株感染後の急性期における臨床症状と脳への影響は依然として不明である。中国・Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのYanyao Du氏らは、オミクロン株感染後の男性患者における臨床症状と脳MRI所見の変化との関連を検討する前向きコホート研究を実施。灰白質厚および皮質下核容積の減少が、不安の増大および認知機能低下と有意に関連していたことをJAMA Netw Open2023; 6: e2345626)で報告した。

61例で感染前後のMRIデータを比較

 Du氏らは、2022年8月28日~9月18日に健康診断で脳MRI検査を受けたSARS-CoV-2非感染の男性98例の完全な画像および神経精神医学データを入手。後にオミクロン株に感染した61例(平均年齢43.1±9.9歳〕について感染後急性期に神経精神医学的データ、臨床症状および脳MRIデータを収集し、うち17例(同43.5±10.0歳)の臨床症状を3カ月間追跡した。

 また、オミクロン株感染前後で、三次元高速グラディエントエコー(3D-MP‐RAGE)法によるMRI画像で灰白質厚と皮質下核容積の変化を比較し、神経精神医学的データとの相関を検討した。

急性期に不安が増大、負の感情の制御能が低下

 オミクロン株感染前と比べ、感染後急性期にはベック不安尺度(BAI)のスコアが有意に上昇(Zスコア=-2.764、P=0.006〕。一方、感情制御能力尺度(Regulatory Emotional Self-Efficacy Scale;RESE)における落胆・苦悩の制御能力スコアは有意に低下した〔中央値18.00、四分位範囲(IQR)16.00~20.00)→16.00(同15.00~19.00)、Zスコア-2.931、P=0.003〕。

 感染後急性期の主な症状は、発熱頭痛、疲労、筋肉痛、咳、呼吸困難などで、デルタ株流行期の感染者と比べ、症状の持続期間は短かった(平均6.87日)。3カ月間追跡した17例では、急性期と比べ発熱(64.7%→11.8%、P=0.01)、筋肉痛(58.8%→ 17.6%、P=0.04)、咳(70.6%→ 23.5%、P=0.02)が有意に改善した。

発熱群で右下頭頂溝の深さが有意に低値

 オミクロン株感染後の急性期において、平均灰白質厚は、左楔前部で2.7±0.3mm→2.6±0.2mmへ、右外側後頭部では2.8±0.2mm→2.7±0.2および2.5±0.2→2.5±0.2mmへと有意に減少した(全てP<0.001)。また、右海馬容積/頭蓋内総容積比は、0.003±0.0003→0.003±0.0002へと有意に低下した(P=0.04)。

 非発熱群と比べ、発熱群では右下頭頂溝の深さの平均値が有意に低かった(4.8±1.1mm vs. 3.9±2.3mm、P=0.048)。

 感染後急性期の左楔前部厚とBAIスコアは負の相関(r=−0.39、P=0.002、誤検出率のP=0.02)を、右海馬容積/頭蓋内総容積比と言語流暢性課題のスコアは正相関(r=0.34、P=0.007)を示した。

 以上から、Du氏らは「オミクロン株に感染した男性患者では、神経学的症状が一般的に見られ、灰白質厚や皮質下核容積の減少が不安の増大および認知機能低下と有意に関連していた。これらの知見は、神経学的後遺症の早期発見と介入において有用な情報となりうる」と結論している。

(小路浩史)