日本医療政策機構と東京大学SPRING GXは、気候変動および健康、持続可能な医療システムに関する意見収集を目的として、実臨床医を対象に自記式質問票によるオンライン調査を実施。78.1%の医師が「気候変動は人々の健康に影響を及ぼす」と回答するなどの結果を12月3日に公表した。
20~90歳代の1,100人が回答
今年(2023年)1~10月の世界平均気温は、1940年に観測を始めて以降、過去最高を記録。国際連合のAntonio Guterres事務総長は「地球沸騰化時代の到来」と警告している。気候の著しい変動は、熱中症の発生件数や熱ストレスによる死亡者数の増加、感染症の流行などの健康障害と関連することが指摘されている。
今回の調査は、診療に携わる20~90歳代の全国の医師を対象に11月21~27日に実施し、1,100人(男性86.5%、女性12.1%、ノンバイナリー1.3%、不明0.1%)から回答を得た。診療科は内科(16.1%)が最も多く、次いで消化器内科と精神科(各8.0%)、整形外科(6.5%)、小児科(5.3%)、循環器内科(5.2%)など。対象の施設区分は多い順に、一般病院(53.7%)、診療所(35.0%)、大学病院または付属機関(10.1%)、介護老人保健施設(0.8%)、介護医療院およびその他(各0.2%)だった。
分析の結果、日本において気候変動が健康に影響を及ぼすと感じている医師の割合は、「とてもそう感じる」(19.0%)と「そう感じる」(59.1%)を合わせて78.1%だった。自身の診療分野の患者に影響があるとした割合は51.4%〔「とてもそう感じる」(8.9%)、「そう感じる」(42.5%)〕だった。
6割が患者や勤務する施設への啓発すべきと回答
今後10年間で気候変動による悪影響が大きいと考えらる疾患や外傷は多い順に、台風や山火事などの異常気象による外傷(83.3%)、熱関連疾患(79.5%)、節足動物媒介感染症(75.8%)、水系感染症(68.8%)、食品由来の感染症(67.9%)、呼吸器疾患(66.3%)、不安・うつ病・その他の精神疾患(58.8%)、寒冷に伴う疾患(58.0%)、低栄養(48.0%)だった(図)。
(日本医療政策機構・東京大学SPRING GXプレスリリースより)
また、気候変動と健康について「患者に啓発を行うべき」と回答した医師は56.7%、持続可能な医療への転換のために「勤務する施設に啓発を行うべき」は57.5%だった。しかし、現時点で患者に環境に関する聴取や気候変動に関する助言を行っている割合は、いずれも30%ほどに過ぎなかった。
医師には社会的影響力がある
2015年9月、国連サミットで持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)が採択され、17項目の目標の1つとして「気候変動に具体的な対策を」を掲げている。また医学生の教育において、昨年度の医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂され、「気候変動と医療」などの必修項目が追加された。これらの施策に伴い、医師が気候に関するリスクや共同利益についての知識を習得することで、患者への助言など、より積極的な役割を果たす可能性がある。
今回の調査結果を踏まえ、日本医療政策機構と東京大学SPRING GXは「健康的な生活習慣の提案と健康に関する公共政策を提唱する上で、医師には社会的影響力があるとの認識が望まれる」と付言している。
(田上玲子)