教えて!けいゆう先生

全治○カ月は当てにならない?
難しい治療期間の予測

 病院でけがや病気の治療を受けた方から、「どのくらいで治るでしょうか」と聞かれることがよくあります。職場から復帰のタイミングを正確に伝えるよう求められているケースも多く、「治るまでの期間をきっちり教えてほしい」と強く望まれる方によく出会うのです。

傷は治癒したが、皮膚に傷が残ってしまうこともある「治る」という言葉。解釈が医者と患者で異なる場合がある

傷は治癒したが、皮膚に傷が残ってしまうこともある「治る」という言葉。解釈が医者と患者で異なる場合がある

 ◇治るスピードはさまざま

 報道などではよく「全治○カ月」という言葉が聞かれます。「治癒までの期間」はある程度正確に予測できるものだ、と考えている方は多いでしょう。

 実はここに、医療者と患者側の感覚のズレがあります。どんなけがや病気であっても、治療に必要な期間を予想するのはかなり難しいことです。

 たとえば、指に切り傷ができ、救急外来で縫ってもらったとします。この時患者さんから「どのくらいで治りますか」と言われたら、私たちはこう答えます。

 「順調に傷が治ってくれば、1週間後くらいを目安に抜糸します。ですが、傷が治るまでに、もっと時間がかかる人もいます。人によっては傷が化膿(かのう)する(創部感染が起こる)こともあります。その時は糸を切って中のうみを出さないといけなくなるかもしれません。そうなると、傷が治るまでにはかなり時間がかかってしまうでしょう」

 傷の治るスピードは、人によってさまざまです。化膿するなど、傷のトラブルが起こると、治療期間は長引く恐れがあります。また、その感染の重症度によっても、「どの程度長引くか」は異なります。

 ◇あくまで目安

 こうした予期せぬトラブルが起こるリスクは人によってさまざまですが、いずれにしても一定の確率で起こり、どれだけ医療が進歩してもそれをゼロにすることはできません。ひとたびこうしたトラブルが起こると、治癒までにかかる期間を予想することは、ますます難しくなります。

 ここでは、話を分かりやすくするために「切り傷」を例にあげましたが、外傷に限らず、どんな病気であっても同じことが言えます。全く同じ病気に全く同じ治療を行っても、患者さんによって治療期間は異なります。

 しかし、冒頭でも書いた通り、社会的な理由でやむを得ず治療期間の目安を明文化しなければならないケースはあり、診断書に治療期間の記載が必要なケースもあります。

 そこで、順調に経過した場合を仮定して、あくまで目安として期間をお伝えする、ということになります。加えて、私たちは必ず「予想より長引く可能性はある」という言葉を添えています。

 ◇「治癒」「治る」の定義

 「治癒」「治る」という言葉の定義にも注意が必要です。

 「どのくらいで治るか」という質問に対して、私たちは目安として「どのくらいで元の生活に戻れるか」を答えとして返すのが一般的です。しかし、「元の生活に戻れても定期的な通院は必要」というケースはあります。医師の言う「治る」が「完全に医療から解放される」を意味しないこともある、ということです。

 また、前述の切り傷の例で言えば、「職場復帰は可能で生活の制限もないが、皮膚の表面には瘢痕(傷の跡)が残る」というケースもあります。特に大きな傷や、感染を起こした傷は、目立つ瘢痕を残す場合があります。

 手や顔のように目立つ位置であれば、「『治る』と聞いていたのにこんなに目立つ傷痕ができてしまった、これでは治ったとは言えない」とショックを受ける方もいます。

 「治る」という言葉の捉え方が、医師と患者さんで異なる可能性がある、という点に注意が必要なのです。

 医師と患者さんでは、同じ言葉でも捉え方が全く異なることがあり、これがお互いの信頼関係に傷をつける危険性があります。医師は患者さんの考え方を十分に理解すべきですし、また患者さん側も、言葉の捉え方に食い違いがないかどうか、きっちり確認しておくと安心でしょう。(医師・山本健人)


教えて!けいゆう先生