米・University of California, San DiegoのBritta Larsen氏らは、米国の6地域で行われているMulti-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA)試験の補助的研究として、参加者の筋肉組成と心血管疾患(CVD)との関連を検討。「男性の腹筋密度はCVDのうち冠動脈性心疾患(CHD)発症リスクの低下と、腹筋面積は同リスクの上昇と有意な関連を認めたが、脳卒中に関しては有意な関連はなかった。女性ではいずれのCVDとも関連は示されなかった」とJ Am Heart Assoc(2024; 13: e032014)に報告した。

CTで腹筋密度と面積を測定し、CVD発症との関連を追跡

 肥満がCVDリスクと関連することは広く知られており、CVD予防における筋肉の重要性については多数の報告がある。しかし、筋肉内脂肪浸潤があるとCVDリスクはかえって上昇することから、単純な筋肉量よりも筋肉密度に注目が集まっている。

 MESA試験はCVD症状がない米国の成人6,814例(白人38%、黒人28%、ラテンアメリカ系またはヒスパニック系22%、中国系12%)を登録した前向き試験で、このうち約3分の1の参加者を身体組成に関する補助的研究の対象とした。

 ランダムに抽出し同意が得られた1,869例(男性924例、女性945例)に対し、Visit 2(2002~04年)またはVisit 3(2004~05年)において腹部L2-L4領域のCTスキャンを実施。腹筋密度(ハンスフィールド単位:HU)および腹筋面積(cm2)と、CVD〔心筋梗塞(MI)、心停止蘇生、脳卒中、CVD死、その他の動脈硬化関連死〕、CHD(MI、心停止蘇生、CHD死)、脳卒中脳卒中脳出血脳梗塞くも膜下出血、脳実質内出血)、脳卒中死〕との関連をCox比例ハザードモデルで解析した。

関連が見られたのは男性のみ

 ベースラインの平均年齢は、男性が64.1±9.9歳、女性が65.1±9.4歳で、追跡期間の中央値は10.3年だった。

 男性では、年齢、人種/民族、腹筋面積(腹筋面積との関連を解析するモデルでは腹筋密度)、心血管危険因子(糖尿病、収縮期血圧、コレステロール値など)や行動因子(身体活動や坐位時間)、内臓脂肪やBMIなど全ての因子を調整したモデルで、腹筋密度はCVD発症と有意差はないものの逆相関の傾向が見られた(傾向性のP=0.15)。

 男性のCHD発症に関しては、腹筋密度との間に有意な逆相関が見られた〔95パーセンタイル群 vs. 10パーセンタイル群:ハザード比(HR)0.26、傾向性のP =0.02〕。脳卒中発症に関しては腹筋密度との関連は見られなかった(傾向性のP=0.78)。

 一方、腹筋面積に関しては、男性においてCVD発症と強い正の関連が見られ(95パーセンタイル群 vs. 10パーセンタイル群:HR 4.19、傾向性のP<0.001)、CHD発症とはさらに強い関連が認められた(同6.18、傾向性のP<0.001)。脳卒中にとの関連は見らなかった(傾向性のP=0.67)。

 女性に関しては、腹筋密度、腹筋面積いずれの解析でも、CVD、CHD、脳卒中発症との関連はほぼ示されなかった。

筋肉サイズはCVDの独立危険因子の可能性

 以上を踏まえ、Larsen氏らは「人種/民族的に多様なMESAコホートを10.3年追跡した結果、男性における高い腹筋密度と少ない腹筋面積が、将来のCVD発症リスクの全般的な低下と関連することが示唆された」と結論。さらに「CVDをCHDと脳卒中に分けて解析したところ、CHDでは関連がより強まった一方、脳卒中との有意な関連は示されなかった。この結果は、冠動脈と脳血管で筋肉との関連性が異なる可能性を示唆している」と考察している。

 また、腹筋密度とCHD発症との逆相関については、同氏らの報告(Metabolism 2020; 111:154321)を含む既報と一致したものであると指摘。腹筋面積とCVD罹患率/死亡率との関連については「筋肉サイズ(筋肉量)の増大は筋肉組織の増加によるものではなく、筋肉内に浸潤した脂肪の増加を反映したものだと示唆する報告もあるが、今回の解析では、内臓脂肪や腹筋密度を調整後も、腹筋面積とCVD発症リスク上昇との関連が維持されたことから、筋肉サイズそのものが独立した危険因子の可能性がある」と付言している。

木本 治