指定難病の家族性高コレステロール血症ホモ接合体(HoFH)は、LDLコレステロール(LDL-C)値が先天的に極端な高値を呈する。そのため、生後10年以内の若年から、冠動脈疾患や大動脈弁狭窄など特徴的な動脈硬化性心血管疾患を併発する場合が多い。近年では17万~30万人に1人程度がHoFHに該当することが分かってきている。3月12日に東京都で開催されたUltragenyx Japan株式会社のメディアセミナーで、大阪医科薬科大学循環器センター特務教授の斯波真理子氏はHoFHの病態や治療実態、治療に関する今後の展望について解説した。また今年(2024年)1月18日に製造販売が承認されたHoFHに対する抗アンジオポエチン様蛋白質(ANGPTL)3抗体エビナクマブについて質疑応答の中で触れた。

LDL受容体活性を介さないでLDL-C値を低下

 エビナクマブはHoFHに対する抗ANGPTL3抗体として今年1月に承認された。ANGPTL3は、リポ蛋白リパーゼ(LPL)、血管内皮リパーゼ(EL)を阻害することで脂質代謝の調節に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。同薬はANGPTL3を阻害してLPLおよびELを活性化させ、超低比重リポ蛋白(VLDL)がLDLとして形成される前にVLDLレムナントの除去を促進することで、LDL受容体活性を介さずにLDL-C値を低下できる()。

図. エビナクマブの作用機序

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(メディアセミナー資料より)

スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬では効果不十分だった

 HoFHは空腹時定常状態のLDL-C値が370mg/dL以上、皮膚および腱の著明な黄色腫、若年から動脈硬化性疾患を起こすなどの臨床的特徴と、遺伝子検査によって診断される。

 LDL-C値を低下させる薬剤としてスタチン系薬、エゼチミブ、PCSK9阻害薬などがあるが、これらはLDL受容体の活性化を作用機序としており、LDL受容体の活性化が完全またはほぼ完全に欠如しているHoFH患者ではこれまで十分な効果が得られていなかった。

 HoFHに対するLDL-C値を低下させる治療法としては、古くからLDLアフェレシスが行われてきた。LDLアフェレシスは、血液を体外へ出して血球成分と血漿成分を分離し、血漿成分に含まれるLDL-Cをマイナスに荷電したビーズに吸着させて取り除いた後、体内に戻す透析のような治療法だ。LDLアフェレシスにより動脈硬化の急速な進行を抑制できるが、LDL-Cを除去しても翌週にはLDL-C値が再び上昇し、コントロール不十分となる課題がある。

現状では動脈硬化性心疾患の予防が困難

 斯波氏は、LDLアフェレシスを施行した15症例を提示した。このうち1症例は5歳女児で、検査時の総コレステロール値は645mg/dL、LDL-C値は597mg/dLだった。心臓カテーテル所見では大動脈弁狭窄、大動脈弁上狭窄、左冠動脈主幹部(LMT)完全閉塞が見られた。

 LDLアフェレシスは体外循環血液量を確保できる10歳ごろになるまでは施行できないため、それ以前は血漿を完全に排除して5%アルブミン溶液に置き換える血漿交換療法を行い、黄色腫の改善が得られた。しかし10歳時、15歳時に冠動脈バイパス手術(CABG)、24歳時にステント治療を施行し、43歳時にはCABGと大動脈弁置換術を行った。同氏は「治療上の問題は、今後CABGを行う場合に使用できる血管を確保できないことだ」と苦労を語った。

 指定難病データベースにおいてHoFHは冠動脈疾患合併率が70%、心臓弁膜症合併率が24%と示されており、HoFH患者にとって動脈硬化性心血管疾患の予防は困難である。

 また『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 日本動脈硬化学会(編)』では、HoFHのLDL-C管理目標値は一次(初発)予防で100mg/dL未満、二次(再発)予防で70mg/dL未満となっている。しかし、管理目標値に到達している患者の割合は初発予防例で21.7%、再発予防例で30.5%といずれも低値だ。同氏は「管理目標値に到達していない症例は、今後も動脈硬化が進んでしまう。これまでの治療法では予防効果は不十分な状況だ」と付言した上で、「HoFHはなるべく若年時に的確に診断し、LDL-C値を厳格にコントロールすることが極めて重要になる」と強調した。

LDL-C値が低下しない患者へ新薬を

 質疑応答の中で斯波氏は「抗ANGPTL3抗体はHoFHに対して想定より臨床的効果が強かった。エビナクマブを今までの薬物治療でLDL-C値が管理目標値に達していないHoFH患者に届けていきたい」と述べた。

(渡邊由貴)