主要な心不全(HF)試験における腎アウトカムは、統一されていないさまざまな複合評価項目を用いているため、結果の解釈や試験間比較に複雑さが生じている。英・University of GlasgowのJawad H. Butt氏らは、HF試験6件の患者データを用いて統一した腎複合評価項目〔3つの推算糸球体濾過量(eGFR低下)低下レベル、末期腎不全(ESKD)または腎死〕により、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタン、SGLT2阻害薬が腎アウトカムに及ぼす影響を検討。SGLT2阻害薬では有意差が認められなかったなどの結果をCirculation(2024年9月1日オンライン版)に報告した。
57%の持続低下、50%または40%の持続低下など定義にばらつき
慢性腎臓病(CKD)はHF患者にしばしば見られ、HFの進展に伴い有病率がさらに上昇する。治療が煩雑になることが多く、CKD非合併HF患者に比べて合併患者では転帰不良となりうる。近年、HF治療薬による腎機能への好影響の知見と相まって今後、HF試験に腎評価項目を設定するのかが問われている。
HF試験における腎アウトカムに関しては、複合評価項目として腎代替療法(透析または腎移植)、eGFR 10~15mL/分/1.73m2未満の持続低下、eGFRの大幅かつ持続的な低下、腎死などが設定されている(Eur Heart J 2022; 43: 1379-1400)。うちeGFRの大幅かつ持続的な低下については、57%の持続低下(血清クレアチニン値の2倍に相当)とする試験もあれば、50%または40%の持続低下とする試験もあり定義がまちまちで、eGFRの低下程度が結果を左右する可能性がある。
そこでButt氏らは、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)患者およびLVEFが保たれた心不全(HFpEF)患者に対するステロイド型MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する計6件(各2件)のランダム化比較試験(RCT)に参加した個々の患者データを対象に、統一された腎複合評価項目(eGFR 40%、50%、57%の持続低下、ESKDまたは腎死)を用いて腎イベント発生に及ぼす影響を評価した。
MRAは有意なイベントリスク、ARNIでは一部で有意なイベント低下
ステロイド型MRAに関するRCTは、EMPHASIS-HF試験〔2,725例、追跡期間中央値21カ月(25~75パーセンタイル:10~33カ月)〕およびTOPCAT Americas試験〔1,767例、同35カ月(23~50カ月)〕。
腎複合評価項目のうちeGFRを40%の持続低下とした場合の腎イベントの発生リスクは、プラセボ群に比べステロイド型MRA群で約2倍に上昇していた〔EMPHASIS-HF試験:ハザード比(HR)1.98、95%CI 1.20~3.26、TOPCAT Americas試験:同1.95、1.43~2.65、図〕。一方、eGFR 50%以上の持続低下および40%以上の持続低下とした場合、両試験とも両群で有意差がなかった。
ESKDまたは腎死についてはTOPCAT Americas試験でのみ検討されており、ステロイド型MRAによる有意な抑制効果は示されなかった(HR 0.67、95%CI 0.33~1.35)。
図. 各RCTにおける腎イベントリスク
ARNIに関するRCTは、PARADIGM-HF試験〔8,399例、追跡期間中央値27カ月(25~75パーセンタイル:19~36カ月)〕およびPARAGON-HF試験〔4,795例、同35カ月(30~41カ月)〕。
PARAGON-HF試験でのみ対照群(バルサルタン)に比べてARNI群でeGFR 50%以上および40%以上の持続低下で腎イベントの発生リスクが有意に低かった(それぞれHR 0.60、95%CI 0.40~0.92、同0.60、0.47~0.76、図)。
ESKDまたは腎死については、HRがそれぞれ0.47(95%CI 0.20~1.08)、0.62(同0.21~1.87)といずれもARNIによる有意な抑制効果は認められなかった。
SGLT2阻害薬はイベントの抑制傾向にとどまる
SGLT2阻害薬に関するRCTは、DAPA-HF〔4,742例、追跡期間中央値18カ月(25~75パーセンタイル:13~21カ月)〕およびDELIVER〔6,262例、同28カ月(20~33カ月)〕。
いずれも各eGFRレベルにおいてイベント発生の抑制傾向が見られたものの、有意差はなかった(図)。
またESKDまたは腎死については、HRがそれぞれ1.00(95%CI 0.50~1.99)、0.99(同0.29~3.43)といずれもSGLT2阻害薬による有意な抑制効果は見られなかった。
以上の結果を踏まえ、Butt氏らは「厳格でない項目を適用するとイベント発生率は上昇するがeGFRの急激な低下例を含んでおり、最終的には腎疾患の進展に対する長期的な影響を反映しない可能性がある」と指摘。今後の臨床試験では、腎複合評価項目の因子を慎重に検討するとともに、腎リスクに対する治験薬および対象集団の特性を考慮する必要があると述べている。
(編集部・田上玲子)