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宇宙でのノウハウ生かす
簡便なリハビリ器具開発

 国際宇宙ステーション(ISS)に日本人宇宙飛行士が滞在することは珍しくなくなった。彼らがミッションをこなすには、健康維持のためのトレーニングが欠かせない。飛行士の健康管理に関わる企業がこれまでのノウハウを生かし、リハビリ用の器具を開発。介護現場で試してもらったところ、評価は高かったという。

ISSで船外活動をする星出彰彦飛行士(NASAテレビより)

ISSで船外活動をする星出彰彦飛行士(NASAテレビより)

 ◇ISSトレーニング、毎日2時間半

 この企業は有人宇宙システム社(東京)。ISSの日本実験棟「きぼう」の運用や宇宙飛行士の訓練などに携わってきた。宇宙に飛び立つ前とISSでの飛行士のトレーニング、地球帰還後のリハビリも担当している。

  無重力の環境では、垂直方向に負荷がかからず「抗重力筋」を使わないため筋力が低下。さらに、骨の強度も低下し、バランス感覚にも影響を及ぼす。このため、宇宙では毎日、大きなマシンを使ってのトレーニングが必要になる。

 同社の担当者は「1時間半の筋肉トレーニングと1時間の有酸素運動で計2時間半かかる。ただ、準備や片付けの時間があるので実質的な運動時間は計1時間半くらいだろう」と言う。より効率的な運動機器を目指す過程で、地上での高齢者や寝たきりの人たちのリハビリにも応用できるのではないかと思い付き、4年以上をかけて製品化を目指してきた。

胸の筋肉と体幹を維持する運動

胸の筋肉と体幹を維持する運動

 ◇引っ張る力一定に

 行き着いた器具は、手すりなどに本体を固定し、グリップを握って引っ張ることで筋力やバランス能力の維持を可能にする。ゴムバンドの場合は、引き始めと引き終わりで張力が変わる。しかし、この器具は初動から張力が一定のまま引っ張ることができる。負荷はダイヤル調整で1キロから3キロまで簡単に変更できる。

 プラスチック樹脂製の器具は350グラムと、小型で軽量だ。より重いダンベルなどより使いやすく、特に器具を持参しなければならない訪問介護では有用だという。

宇宙関連企業が開発したリハビリ器具

宇宙関連企業が開発したリハビリ器具

 ◇火星探査での活用目指す

 大きな負荷をかけるため、モーターを取り付けて制御すことも考えられる。しかし、「介護現場では、機具にスイッチが一つあるとなかなか受け入れてもらえない面がある」と担当者。このため、そぎ落とせる部分はそぎ落とし、できるだけシンプルにした。電力を使わず、難しいマニュアルは不要だ。

 当面は介護施設で理学療法士らの指導の下で使ってもらい、安全面に配慮した上で一般の家庭への普及を目指す。「その後は地上での経験を宇宙で生かしたい。例えば、地球から長い距離を旅する火星有人探査では、いかに宇宙船に積み込む器具を小型化するか大事な要素になる」。同社担当者の夢は広がる。

 この器具は、商品名「ぷるそら」として夏頃に発売の予定。(鈴木豊)


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