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1型糖尿病患者の医師がセミナー
体験踏まえ、治療のトレンド紹介

 2045年までに11人に1人が糖尿病を発症すると予想されている。毎日インスリンの補充を続ける必要がある1型患者は、現在約10~14万人。この1型を10代で発症した医師らによるセミナーが5月、東京都内で開かれ、最新治療のトレンドを紹介するとともに、インスリンや血糖を下げる薬が効き過ぎ、動悸(どうき)や意識レベルの低下などの症状を招く「低血糖」などへの注意を呼び掛けた。
 糖尿病は膵臓(すいぞう)でつくり出されるインスリンの作用が不足し、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる高血糖状態が継続する。長期的な健康管理をしないと、壊疽(えそ)や糖尿病網膜症糖尿病腎症などの深刻な合併症をもたらす。インスリンを膵臓が十分につくり出すことができない1型と、インスリンの分泌が不十分か、分泌されるインスリンに体内が適切に反応しない2型がある。1型の治療ではインスリンを直接投与するのに対し、2型の場合はインスリンの出を良くしたり、効き目を良くしたりする薬剤などが使われる。

自身の体験を語る大村詠一さん

自身の体験を語る大村詠一さん

 ◇ライフステージごとに問題

 セミナーに招かれた元エアロビック競技日本代表の大村詠一さんは、8歳の時に発症してから25年。「家族には糖尿病の患者はいない。何で自分だけが糖尿病に」「一生にわたって注射を打ち続けなければならないのか」。大村さんは絶望したという。

 小学校の修学旅行に行けない。就職活動の際には「差別されるのではないか」という不安を抱え、就職後は職場の理解不足に苦しむ。大村さんはライフステージにおけるさまざまな問題を挙げるとともに、医療費に関して「20歳以上の患者は公的支援がない」と訴えた。

 ◇低いインスリンポンプ普及率

 糖尿病の主な治療法には、ペン型の注射器でインスリンを注入する「頻回注射療法」、皮下に刺した細い管からインスリンを常時注入する「持続皮下インスリン注入療法」(インスリンポンプ療法)、血糖値と相関するグルコースをモニタリング(CGM)することで、インスリンの注入を自動的に停止したり、再開したりする機能を備えたインスリンポンプ療法(SAP)などがある。

 講演で治療法について説明した南昌江内科クリニックの南昌江院長は、14歳の時に1型糖尿病を発症、インスリン治療は42年間に及ぶ。5年前からインスリンポンプを使用し、趣味のマラソンを楽しんでいる。

治療のトレンドを紹介する南昌江院長

治療のトレンドを紹介する南昌江院長

 注射だと1日に最低4回から7~8回打つ必要がある。それに比べてポンプの方が患者の負担は少ないようにみえる。南院長は「1型糖尿病患者におけるインスリンポンプ普及率は米国で30%、ノルウェーで20%を超えているのに対し、日本は7~10%にすぎない」と指摘した上で、「注射に比べて医療費が高い。ポンプについて指導できる医療施設が十分ではない。注射で十分にコントロールできるので、体に機器を着けることに抵抗がある」と理由を推測した。

 大村さんは「頻回注射療法の費用は1カ月に1万5000円、SAPだと約3万円で2倍になる。子どもが2人いるので厳しい面がある」と語った。

 ◇医師が自信持って勧める

 国立病院機構大阪医療センターの加藤研・糖尿病内科科長は「医療費を何とか安くしてもらいたい。基幹病院の科長として、2型糖尿病の患者も診ているが、インスリンを必要とする人も多い。いずれSAPが保険適用されるだろう。将来は2型患者にも1型の治療を受けてもらいたい」と話した。

 加藤科長は13歳の時に発症。「SAP療法をしている。夜間に低血糖防止機能が働き、とても快適だ」と述べた上で、「大阪医療センターを受診している患者の50%以上がインスリンポンプまたはSAPによる治療を実施している。医療従事者が『これは良い治療ですよ』と自信を持って勧めることができる」と語った。

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