Dr.純子のメディカルサロン

前立腺がんが急増している理由
~検査で疑いが出ても慌てないで~ 三木健太・東京慈恵会医科大学本院泌尿器科診療副部長

 ◇夜間頻尿の場合は

 海原 こうなったら危険な状態だと言える前立腺がんの特定の症状はありますか。

 三木 前立腺がんは、かなりの進行状態になるまで、症状はありませんので、こんな症状が危険なサインだというのはありません。

 骨に転移をすると、その部位が痛いので、痛みの精査で前立腺がんが見つかるケースもありますが、これは相当に進行しています。この状態まで放っておくのはよくありませんし、この段階になってからでは、治療法も限られてきます。

 男性は加齢とともに、排尿のトラブルが増えますので、夜間頻尿などでお近くの先生にご相談いただき、その際に、今まで一度もPSA検査をしていなければ、そのことをきっかけに採血をしてほしいと思います。

 偶然にPSA検査を行い、数値が高いため、精査をしてみると、前立腺がんが見つかることが多いのです。

 海原 症状がないのに健診で前立腺がんが見つかり、驚く人もいるようです。このようなときは、どう対処することが大事でしょうか。

東京慈恵会医科大学付属病院中央棟(東京・港区西新橋)

東京慈恵会医科大学付属病院中央棟(東京・港区西新橋)


 三木 「何も症状がないのに、何で俺は前立腺がんなのか?」と深刻な表情で私の外来に来る方がたくさんいらっしゃいます。

 多くは、まだPSAが少し高いだけで、近くの先生や産業医などに早く泌尿器科に行きなさいと脅かされただけなのですが。

 ◇PSAが高いだけでは

 海原 数値が高くても、前立腺がんとは限らないのですか。

 三木 実際には、PSAが少し上昇したくらいで、必ず前立腺がんと診断されるわけではありません。

 PSAは、血液中に含まれるナノレベルのわずかなタンパク質(前立腺特異抗原)を測定しているわけです。

 がん細胞があると細胞が崩れて、血液中にそのタンパク質がこぼれて出てきますが、前立腺に炎症があるだけでも、PSAは上昇してしまいます。

 例えば、一時的に何らかの理由で抗ヒスタミン薬などを内服すると、もともと前立腺肥大の方は、その副作用で排尿状態が悪化して残尿が増え、軽度の炎症を伴う状態になります。

 このときに偶然、PSA検査をしてしまうと、本来の数値より高くなり、心配が増えてしまうのです。

 細菌感染による前立腺炎などは、PSAも激しく上昇し、100を超えてしまうようなことも珍しくありません。

 海原 炎症でも数値が顕著に上昇するのですね。

 三木 性生活の直後も、PSAが上昇する傾向があります。このようなことを説明すると、どれくらい禁欲してPSA検査をすればいいのかなどの話になります。

 そもそも、どのくらい激しい性活動で、どの程度PSAが変化するかなどというデータはありませんから、「誰も分かりません」とお答えしますが。

 PSAがやや高い状態で泌尿器科を受診する際には、慌てないことが肝心です。まずはもう一度、PSA検査をし直すことをお勧めします。

 もちろん、そのときの排尿の状態や、市販薬を含めた内服歴などは重要な情報となりますので、担当医に伝えてほしいです。

凍結治療に使用する機器「Cryo-Hit」

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 それでもPSAが高いと判断されたときには、肛門から指を入れる触診、前立腺エコー、MRI(磁気共鳴画像装置)などの検査が行われ、もう少し本格的に前立腺がんが疑わしいかどうかを調べることになります。

 ◇「針生検」とは 

 海原 前立腺がんの診断はどのように行われるのですか。

 三木 MRIなどで前立腺がんが疑わしいとされると、いよいよ「針生検」です。これは皆さんから嫌われている評判の悪い検査です。

 肛門から専用のエコープローブを入れて、そのプローブに沿わすように針を進めて、エコーで前立腺を確認しながら、前立腺に向けて針を刺して、前立腺の一部をかじってくるようなイメージです。

 かじるのは1カ所ではありません。サンプル検査ですので、サンプル数が多ければ多いほど、真に近づくと考えますので、多くの場合は十数カ所、ときには二十数カ所の生検をします。

 最近はMRIでがんの所見があるときに、その画像とエコーの画像を重ね合わせて、その部位を中心に生検をする試みも行われています。

 慈恵医大では、先進医療として認められています。ただし、MRIやエコーもパーフェクトではないので、多くの場合は、できるだけ均等にサンプルをいただく、すなわち、多くの針を刺すことになります。

 海原 検査にはリスクも伴うのですか。

 三木 この前立腺生検では、少なからず痛みがありますので、麻酔を行います。その方法については、施設によってさまざまですので、担当医によくお尋ねください。

 当院(東京慈恵会医科大学付属病院)では、20カ所以上の多数箇所生検や、先のMRIと重ねる生検をする際には、腰椎麻酔を行い、検査後に1泊入院していただきます。

 この前立腺針生検のときに、泌尿器科医が最も心配するのは感染症です。肛門からの生検では、大腸菌が前立腺に入ってしまい、検査後に発熱することがあります。

 もちろん、さまざまな予防処置はしますが、適切な処置をしないで、検査後に敗血症になると大変です。



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