Dr.純子のメディカルサロン

前立腺がんが急増している理由
~検査で疑いが出ても慌てないで~ 三木健太・東京慈恵会医科大学本院泌尿器科診療副部長

 ◇どうしても必要な検査?

 海原 そのように危険を伴う検査は、どうしてもしなくてはいけないのかと思う方が多いと思います。やはり、しないと次に進めないのでしょうか。

 三木 できれば、不要な検査は避けたいと思っています。それでも、この針生検をお勧めする最大の理由は、頂いた組織を顕微鏡で見て、診断をして、前立腺がんの悪性度を把握するためです。

 専門的には、グリソンスコア、あるいはグレードグループなどの分類があり、その程度によって強く治療をお勧めすることがあります。

 また、病気の将来についてのお話が、より具体的にできるかもしれません。あるいは、程度が軽いなら、治療しなくてもいいとの判断もできます。

 ただ、もしも高齢(80歳以上)であれば、生検そのものをやめるかもしれません。あるいは、少しでもリスクを減らすために、生検本数を減らすかもしれません。

チタンでできた長さ5ミリの放射性物質(ヨウ素125)のカプセル。小線源治療では、70~100個程度を永久に埋め込んでしまう

チタンでできた長さ5ミリの放射性物質(ヨウ素125)のカプセル。小線源治療では、70~100個程度を永久に埋め込んでしまう

 このあたりはケースバイケースです。将来的には、新しい検査で、針を刺さずに診断することもできるかもしれません。海外では、そのような報告もありますが、残念ながら現状では、これをしないと次に進みにくいのです。


 海原 前立腺がんが見つかっても、特に治療しない場合もあると聞きますが。

 三木 PSA検査は、前立腺がんの早期発見に大きく貢献していると思いますが、一方で、この検査で発見される前立腺がんの中には、生命予後に影響を与えないような、臨床的には意義のないものも含まれています。

 これらを適切に見分けて、できるだけ根治的治療を行わず、患者さんへの不必要な負担、苦痛、QOL(生活の質)低下を回避しようとする考え方が提唱されています。これは医療経済的な側面からも恩恵が大きいわけです。

 しかし、現在の診断法では限界があり、前立腺がんと診断がついた時点で、そのまま放置していてもいい、との判断は完全にはできません。

 この対応策として注目されている方法が、監視療法(アクティブ・サーベイランス)です。

 ◇監視療法とは

 海原 詳しくお聞かせください。

 三木 これは診断時のPSA値が10ng/ml以下で、かつ生検の結果、がんが見つかったサンプル数が少なく、病理診断でがんではあるものの、組織構造の崩れが少ない患者さんが候補になります。

 そのような患者さんに、すぐには治療を行わずに、まずは定期的なPSA検査をしていこうというものです。

 前立腺がんと診断されているにもかかわらず、お薬も飲まずに外来に3~4カ月ごとに通院し、PSA検査でパトロールをするわけです。

 もしも、経過中にPSAが連続的に上昇するような場合、しかも、短期間での変化など、病気の勢いが増しているような疑いがあるときは、もう一度、MRI検査をしたり、再度の針生検をしたりします。それらの結果いかんでは、積極的な治療に移行していくわけです。

 監視療法の問題点として、前立腺がんと分かっていながら、積極的な治療をしないことへの不安が考えられますが、いくつかの研究から、QOL変化に大きな影響がないことも示されています。

小線源治療で使用する密封小線源をまとめて保管している容器。この中に長さ5ミリのカプセルが重なって充填されている

小線源治療で使用する密封小線源をまとめて保管している容器。この中に長さ5ミリのカプセルが重なって充填されている

 もちろん、担当医の適切な説明などが不安解消に大きなウエートを占めることは言うまでもありません。

 ◇小線源治療とは

 海原 前立腺がんの凍結治療は、先生のご専門と伺いました。どのようなものですか。

 三木 私の専門は大きく二つに分かれます。一つは転移のない前立腺がんに対する放射線治療です。もう一つが凍結治療です。

 私の専門とする放射線治療とは、小線源治療のことです。小線源治療とは、ブラキセラピーなどとも呼ばれますが、前立腺に均等に針を刺して、その針の内腔を通してチタンでできた長さ5ミリの放射性物質(ヨウ素125)のカプセルを70~100個程度、永久に埋め込んでしまう治療です。

 欧米では、すでに30年以上の経験がありますが、日本でも2003年にスタートしましたので、もうすぐ16年の歴史です。

 慈恵医大でも、同年に導入して私が担当し、毎年100人以上の患者さんを治療してきました。

 この治療法は短期入院(当院は1泊2日)で、体への負担が少なく、尿失禁の心配がいりません。

 治療効果は、一般には手術と同等とされています。当初、この治療法は前立腺がんの中でも、比較的悪性度の低い(低リスク)がんがいい適応であるとされました。

 しかし、近年では、治療経験豊富な施設から、中間リスクはもちろんのこと、局所進行性の高リスク前立腺がんにも有効であるとの成績が報告され、注目されています。



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