物忘れより人格変化や行動異常
働き盛りで発症する前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の前方にある前頭葉や側頭葉が萎縮する認知症だ。脳の海馬が萎縮するアルツハイマー型認知症と異なり、物忘れの症状はあまり表れず、人格の変化や行動の異常、ありふれた物の名前が言えないなどの症状が出現する。本人に病識はなく、家族は振り回され、疲れ切ってしまうケースが多い。
▽働き盛りの年代で発症
物忘れは、認知症の中でも国内で最も患者数が多いアルツハイマー型認知症の早期から見られる重要な症状だ。一方、前頭側頭型認知症では物忘れは目立たない。患者数は認知症全体の数%と報告されている。
東京大学医学部付属病院(東京都文京区)脳神経内科の岩田淳准教授によると、脳の前部にある前頭葉、側面にある側頭葉に、異常なタンパクが蓄積して神経細胞が障害を受けて発症する。画像検査をすると、患者の脳の前方に強い萎縮が認められるという。異常タンパクが蓄積する理由は分かっていない。発症年齢は40代~60代前半と、高齢者に多いアルツハイマー型認知症に比べて若い。わが国では遺伝性はないと考えられている。
▽同じ時刻に同じ行動
他者の気持ちをくみ、本能のおもむくままに行動するのを自制して社会に適応したり、言葉の辞書の働きをしたりする前頭葉や側頭葉を中心に神経変性を来すため、人格障害や行動異常、言語障害などが表れる。例えば、身勝手と思われる言動で他人とトラブルになる、交通ルールを守らない、店の商品を断りなく持ってきてしまう(患者に万引きの意識はない)、周囲の状況に関係なく突然立ち去る、同じ食べ物、特に甘い物を際限なく食べる―などだ。
「これらは精神疾患でも見られ得る症状ですが、例えば『メガネ』と言われてもメガネが指させなくなるのは前頭側頭型認知症に特徴的で、診断のポイントなります」と岩田准教授。さらに「毎日同じ時刻に、同様の行動を繰り返す常同行動が見られます。毎日何キロも歩く人もいますが、アルツハイマー型認知症と異なり、迷って自宅に帰れなくなるということはよほど進行しない限りありません」。
確実な治療法はないが、岩田准教授は「生活していく上で困る常同行動を日常生活で支障を来さないものに変える行動療法や、介護者に適切に対処する方法を指導することで患者が穏やかに過ごすことができ、介護者の負担も減ります。日本認知症学会のホームページなどで認知症専門医を探して相談することをお勧めします」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/10/26 08:00)