特集

2型糖尿病、悪化の恐れ 
新型コロナの流行で

 新型コロナウイルス感染症は収束する気配がない。そんな中、医療機関での感染を恐れて定期診察を控えている人もおり、糖尿病など慢性疾患の悪化に警戒する必要がある。専門医は「コロナの影響で生活習慣が乱れたり、定期的な受診ができなくなったりして病状が悪化している患者が少なくない」と危惧している。

コロナで溜まるストレス 糖尿病は病状悪化に要注意!

コロナで溜まるストレス 糖尿病は病状悪化に要注意!

 ◇ストレスによる悪影響

 糖尿病は代表的な慢性疾患の一つ。特に「2型糖尿病」=用語説明1=は、重症化するまでほとんど自覚症状はないが、進行すると下肢切断や失明を引き起こしたり、循環器や脳血管疾患の発病率を高めてしまったりする怖い病気だ。

 国際医療福祉大学三田病院(東京都港区)の糖尿病・内分泌内科部長の坂本昌也教授は、「新型コロナの流行が続く中で、生活習慣の変化や日常生活のストレスが、糖尿病の病状に悪影響を与えている」と指摘する。

 在宅勤務と外出自粛で蓄積されたストレスにより、飲酒や食事の量が増えたりすることがある。運動はストレス解消に有効だが、スポーツジムなどの閉鎖が相次いだ。この結果、糖尿病の病状悪化を招いている、というのだ。

 ◇夏に改善せず

 通常、夏は暑さによる血管の拡張で血圧が下がったり、活動量が増大したりすることで血糖の状態は他の季節より改善する傾向がある。しかし、坂本教授は「今年の夏は逆に少し悪化している患者が多い」といい、新型コロナが要因とみられる症状の悪化を懸念する。

 その上で、「1カ月程度ならまだいいが、(血糖状態の悪化が)3~4カ月も続いた上に秋から冬へと季節が移れば、病状が大きく悪化してしまう。『ちょっと悪くなった』程度でも放置せずに、医師に相談してほしい」と坂本教授は訴えている。

 ◇300万人「要注意」

 特に注意が必要なのは、糖尿病の評価指標「HbA1c」=用語説明2=の数値が改善されるべき夏に悪化している40~60代の患者だ。HbA1cが6.5%を越えると糖尿病と診断され、恒常的に7.5%を越えていると病状が悪化し、将来的に失明や腎機能不全などの恐れが高くなるとされる。

 通常の年でも秋から冬にかけては、HbA1cが6.5%程度の人が7%以上に上昇するケースも多い。この冬は、新型コロナの本格的な再流行、外出規制などの再実施という糖尿病の悪化要因が加わる可能性があるだけに、一段の警戒が欠かせない。

 坂本教授は「約2000万人とされる2型糖尿病患者のうち、HbA1cが7.5%以上なのは約300万人に上る。この人たちは『要注意』と考えてほしい」と話している。

医療機関は患者を対象に食事教室も開催

医療機関は患者を対象に食事教室も開催

 ◇治療内容を変更

 数値が高い患者はどうすべきか。運動の励行や食事制限などに取り組んでいる場合は、運動の強化やメニューの見直し。薬を服用している場合は短期的に投薬内容を見直して治療を強化するのが望ましい。

 これら治療の変更には医師の専門的な指導が欠かせない。坂本教授は「患者や家族だけで決めず、必ず医師の診察と病状評価、指導に基づいて取り組んでほしい。投薬の変更や増量など治療の見直しは、可能なら糖尿病の専門医が関与した方がいい」とくぎを刺している。

 新型コロナ拡大に伴う、医療体制の変化にも注意したい。糖尿病患者を継続的に診療しているかかりつけ医の中には、新型コロナの対応に追われ、免疫が低下して感染リスクの高い糖尿病患者の来院に消極的になっている医師が少なくないという。患者に対して十分なケアができるとは限らないからだ。

坂本昌也教授

坂本昌也教授

 ◇夏のうちに専門医に相談

 「開業医の多くは新型コロナ対策に追われている。かかりつけの医師に相談の上、糖尿病の専門医の診断を夏のうちに受けておくことを勧めたい」。坂本教授はこうアドバイスする。(喜多壮太郎・舟橋良治)

【用語説明】
(1)2型糖尿病
 血糖値を抑えるホルモン「インスリン」への反応が低下するとともに、分泌量が少しずつ低下して血糖のコントロールができなくなる。放置しているとインスリンが不足して注射により合成インスリンを定期的に補充する必要がある。
(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
 血液内で酸素を運ぶ赤血球に含まれるタンパク質の一つ。ブドウ糖との結合率が高い。変動の大きい血糖値の代わりとして、糖尿病の病状評価の指標の一つに使われている。


新着トピックス