特集

女性活躍、両立支援からこぼれ落ちる母親たち
~就労に制約・困難、厳しい経済状況~ 障害児の母親の就労状況と課題(上)

 近年、日本では女性は最大の潜在力であるとして、女性活躍、女性の就業率の向上が図られている。政府は仕事と子育ての両立支援策として、保育所、放課後児童クラブ(学童保育)の待機児童解消に向けて取り組んでおり、厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」によると、末子が18歳未満の子どもがいる母親の就業率は、18年に72.2%、19年に72.4%と上昇傾向にある。一方、各種調査での障害児の母親の就業率は、同調査での就業率を下回っている。女性活躍、男女共同参画社会推進が掲げられる一方で、障害児の親に対しては、子どもの障害に配慮した両立支援策が確立されていない。子育てを主に母親が担うことを所与とする性別役割分業への批判的視点は不可欠だが、現状として、障害児の母親は就労に制約や困難を抱えている。(昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員  美浦 幸子)

図1 障害児の母親の就業率

 本稿では政策課題として政府やマスメディアから取り上げられることが少ない障害児の母親の就労状況について学齢期を中心に概観し、両立支援の課題を提示したい。

 ◇低い就業率、高い就労希望

 筆者は21年6月~7月に、東京都立特別支援学校在籍児童・生徒の母親を対象にウェブアンケート「特別支援学校在籍児童・生徒の母親の生活・就労実態調査」を実施した。小中高設置校を中心に都内14校の学校長に調査協力を依頼し、協力が得られた学校を通して調査趣旨とアンケートのURL、QRコードを記載した調査依頼文を保護者に配布した(視覚障害校・小中55人、聴覚障害校6人、肢体不自由校290人、知的障害校541人の計892人)。回答数260件、回答率29.1%(小数第2位を四捨五入。以下同様)。無回答の多い1件を除外し、連続して送信された全問同一回答だった3種類の回答(7件)は各1件、計3件と見なし、有効回答数を255件とした。特別支援学校在籍児童・生徒は、通常学級、特別支援学級に在籍する障害児よりもケアニーズが高い子どもが多いことが推測される。

 本調査での母親の就業率は55.3%だった(図1)。就労状況を質問する前に、新型コロナウイルス感染拡大・対策の就労への影響を尋ねたところ、「仕事を辞めた」は1.6%であり、雇用への影響は限定的なものと解釈した。なお、厚労省の第2回障害児通所支援の在り方に関する検討会「参考資料4」(21年)によると、「国民生活基礎調査」で末子が6歳以上の手助けや見守りが必要な児童の母親の就業率は19年で68%であり、同年代の母親の就業率79%よりも低かった(68%は厚労省障害保健福祉部が特別集計した数値で、居住地、在籍校は問わないものと推測される)。障害児の母親の就業率は相対的に低いことが確認された。

 「2019年 国民生活基礎調査の概況」によると、18年の1世帯当たりの平均所得金額は、全世帯が552万3000円で、児童のいる世帯では745万9000円だった。本調査で世帯年収を尋ねたところ、550万円未満が54.1%、550万円以上750万円未満が20.8%、750万円以上は22.7%だった(図2)。障害児家庭の過半数が全世帯平均に満たない厳しい経済状況にあることが分かった。世帯収入の多寡には、親の経歴や職種、正規・非正規の雇用形態、勤続年数など、さまざまな要因が関連していると推測されるが、共働きが主流となった昨今、母親が未就労であること、母親の就労が抑制されていることがプラス要因にならないことは想像に難くない。

 また、本調査で未就労の母親に就労希望の有無を尋ねたところ、「就労希望がある」が71.7%、「就労希望はない」が26.5%だった。複数の先行研究においても、未就労者の半数以上に就労希望があるとの知見が得られている。

図2 障害児家庭の世帯年収

 ◇離職、再就労をあきらめた要因

 本調査の母親の96.9%には就労経験があり、そのうちの73.3%には離職または再就労をあきらめた経験があった。離職または再就労をあきらめた要因に子どもの障害が関連したかを尋ねたところ、約3分の2に当たる65.7%が「関連がある」と答えていた。

 「関連がある」と答えた母親に、具体的な要因を尋ねると(10の選択肢の中から最も当てはまるものを一つ選択)、就学後の「放課後・夏休み等学校休業日の自宅での見守り・介助のため」が最も多く、次いで未就学期の「児童デイサービス・児童発達支援の通園・通所のため」が多かった(図3)。「頻繁な通院のため」「長期入院での付き添いのため」「その他」を除くと、未就学期に要因がある場合が33.8%で、就学後に要因がある場合が39.8%と、就学後が上回っている。

 定型発達児の場合、子どもの年齢が上がるにつれて母親の就業率は上昇するが、子どもに障害がある場合、同じようには上昇しない理由がここにある。ケアニーズが高い障害児の場合、10年程度で両立支援が終了する定型発達児とは異なり、中高生、さらには成人後にも支援が必要だ。

 以下では、子どもの状態に応じて必要となる通院・長期入院を除いて、仕事と子育て・ケアの両立を制約する要因を教育、福祉を中心に概観する。

図3 離職の要因、再就労をあきらめた要因 (N=118)


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