女性活躍、両立支援からこぼれ落ちる母親たち
~就労に制約・困難、厳しい経済状況~ 障害児の母親の就労状況と課題(上)
◇母親たちの要望
では、母親たちは自身の就労に関してどのような支援を望んでいるのだろうか。本調査では、就労希望のある未就労の母親に自身が就労するために福祉サービスに望むことと、就労中の母親に就労継続のために福祉サービスに望むことを尋ねた(図5)。
未就労の母親で最も多かったのは「放課後等デイサービスの夏休み等学校休業日の時間延長」「高等部卒業後の夕方の居場所」で、次に多かったのは「子どもの障害種・状態を受け入れる放課後等デイサービスの増設」だった。家族による支援がない場合、学童保育より学校休業日の開所時間が短い放デイの時間内で就労しようとすると、就労可能時間は通勤時間も含めて、さらに短くなる。職種に関する別の質問では、「預かり時間が短いので職種が選べない」などの意見があった。高等部卒業後の夕方の居場所については、進路として生活介護を想定している母親からの要望だろう。主に重度障害児が進む生活介護では、学校より遅く始まって放デイより早く帰宅することが多い。放デイの増設については、重心児や医ケア児の受け入れ先が少ないことは前述の通りだが、強度行動障害などでも断られる場合がある。
就労中の母親で最も多かったのは「放課後等デイサービスの夏休み等学校休業日の時間延長」で、次に多かったのは「高等部卒業後の夕方の居場所」だった。放デイの開所時間が就労時間に満たない場合、複数サービスを組み合わせるか家族内でのケアのやりくりが必要になるため、放デイの時間が延長されれば負担軽減につながる。高等部卒業後の夕方の居場所について「その他(記述)」には「卒業後の生活介護の時間の終了が早すぎて思うように働けない」「夕方だけではなく、午前の居場所も必要」などの意見があった。障害のある子どもを出産したときの母親の年齢を30歳と仮定すると、高等部卒業時の母親の年齢は48歳だ。一般的な定年退職の年齢を60歳、雇用延長で65歳とすると、子どもが高等部を卒業した後の母親の就労期間は10年以上ある。その間に子どもがグループホームに入居したり、自立生活に移行したりする保証はないため、支援を望む声が上がるのは当然のことだろう。
図5 就労のために福祉サービスに望むこと (複数回答可)
◇障害児支援をめぐる議論
母親たちからは放デイに対する要望が多く挙がっていた。では、なぜ障害児支援では両立支援をしてこなかったのだろうか。
14年に実施された厚労省の第6回障害児支援の在り方に関する検討会では、障害児・発達障害者支援室長補佐から障害児の家族支援として、「特に、家族の両立支援・就労支援については、目的に入っている場合と入っていない場合で、施策の方向性に差が出てくるものと考えており、その論点として挙げております」との問題提起があった。
検討会後にまとめられた報告書には、「保護者の就労のための支援」との項目がある。少し長いが以下に引用する。
「本検討会では、子どもに障害があるからといって就労が制限されるようなことはあってはならないという考え方が共有された。保護者の就労等によりその監護すべき児童が保育を必要とし、保護者から申し込みがあった場合は保育所において保育することとされているが、保護者の就労支援の観点からは障害児支援の役割も大きい。障害児支援が一般施策としての子育て支援よりも優先して利用されるような状況になると、障害児本人の地域社会への参加・包容の観点から問題との指摘もあり、バランスをとる必要があるが、一般施策における対応が著しく困難であるような濃密な支援を要する場合等においては、保護者の就労のための支援という観点も含めて一体的な対応を進めることが必要である。例えば、重症心身障害児に対して療育を行っている通所支援における受入時間の延長を報酬上評価すること等も考えられる。厚生労働省においては、これらの観点を踏まえつつ、今後望ましい在り方について検討すべきである」
傍線部について、「障害児支援」を放デイ、「一般施策としての子育て支援」を学童保育、「地域社会への参加・包容」をインクルージョンと置き換えてみると、「放デイが学童保育よりも優先して利用されるような状況になると、障害児本人のインクルージョンの観点から問題との指摘もあり、バランスをとる必要がある」となる。インクルージョンの観点から、学童保育を優先利用させるよう、放デイの開所時間を学童より抑制することでバランスをとる必要があるとの解釈ができるだろうし、実際にそうされてきた。翌15年に公表された「放課後等デイサービスガイドライン」には保護者支援として、「保護者の時間を保障するために、ケアを一時的に代行する支援を行うこと」との記載があるが、就労支援、両立支援への言及はなかった。
インクルージョン推進への異論はないだろう。では、障害児支援である児童発達支援や放デイが保護者の就労時間に配慮・対応しないことで、どれだけインクルージョンが推進されたのだろうか。保育所、学童保育での障害児の受け入れは増加しているが、実際には申し込んでも入れない子どもたちが毎年出ている。そのために母親たちが障害児支援を選択することで(実際には選択の余地はない)、意図的にインクルージョン推進を阻害してきたわけではない。インクルージョン推進には保育所や学童保育での受け入れ枠の拡充と合理的配慮がなされるための態勢づくりが不可欠であり、「子どもに障害があるからといって就労が制限されるようなことはあってはならないという考え方が共有された」ならば、インクルージョン環境の十分な質量が整うまでの過渡期には、障害児支援でも両立を支援することが必要だ。また、家庭の状況や障害特性からより手厚い支援を必要とする、学童保育に入れなかった一人親家庭の小学生や学童保育に適応困難な小学生、さらに学童保育対象外の中高生の存在を忘れてはならない。こうした子どもの親にとって、日中一時支援が就労支援として機能していない地域では、放デイが唯一の支援なのである。
本年度実施された障害児通所支援の在り方に関する検討会では、再び保護者の就労支援が論点の一つになった。今後の制度や報酬の在り方について、現実に即した両立支援がなされるのか、注視していく必要がある。(時事通信社「厚生福祉」2021年10月26日号より転載)
(2021/11/22 05:00)
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