特集

女性活躍、両立支援からこぼれ落ちる母親たち
~就労に制約・困難、厳しい経済状況~ 障害児の母親の就労状況と課題(上)

 ◇送迎、校内待機問題

 離職の要因、再就労をあきらめた要因として学校に関連する項目は、「スクールバスバス停や学校への送迎」「校内待機・校外学習の付き添い」である。

 スクールバスバス停への送迎は、子どもが単独でできない限り、高等部まで継続する。保護者の就労を理由に移動支援を利用できる自治体もあるが、その場合でも就労証明書の提出を求められると、再就職の内定段階では事業所と契約ができないという問題点がある。

 学校への送迎は、スクールバスに乗車できない医療的ケア児(以下、医ケア児)に多い。文部科学省「令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査」によると、特別支援学校への医ケア児の通学方法で最も多かったのは「自家用車」の58.8%であり、「スクールバス」は26.7%だった。

 都立特別支援学校(肢体不自由)では、スクールバスに乗車できない医ケア児の専用通学車両の運行を開始しているが、調査時点では自家用車や徒歩・公共交通での通学者が200人以上いた。自家用車通学は47都道府県のすべてに見られ、スクールバス利用が自家用車利用よりも多かったのは6都府県、スクールバス通学0が7県あり、地域差が大きい。通学の負担が大きいと、在宅での訪問教育を選択することもある。また同調査によると、都立特別支援学校で医療的ケアを実施した保護者は0人であり、全国的にも限定的だったが、校内待機は続いている。

 21年6月に成立した「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」には、その目的として「家族の離職の防止に資し」が盛り込まれた。今後、支援の拡充、地域差の是正が期待されるが、現状では、送迎や校内待機が就労の制約につながっている。

表 子どもへの支援

 ◇両立支援をしてこなかった障害児支援

 保育所や学童保育は子どもへの育成支援と保護者への就労支援を同時に行い、仕事と子育ての両立を支援している。その対象はすべての子どもとされているが、実際には障害を理由に両立支援を得られない親子は多い。その場合、専門施策である障害児支援を選択することが可能だが、障害児支援は子どもへの発達支援は行うが、保護者への就労支援は目的としないため、仕事と子育て・ケアの両立支援はしない(表)。そのため、保護者、特に母親は支援日時に都合を合わせなければならず、フルタイムで働きたくても、パートタイムに変更するか、離職せざるを得ない場合が多い。第1回障害児通所支援の在り方に関する検討会「資料3」(21年)によると、19年は障害児サービスの利用者が34万9465人であったのに対し、保育所などにおける障害児の受け入れ人数は7万7936人、学童保育における障害児の受け入れ人数は4万2770人だった。

 未就学児対象の児童発達支援には週1回などの通所によるものと、平日に毎日通う通園施設がある。通所は週に1回であっても、平日日中に固定され、長期にわたるとフルタイム就労の継続が難しくなる場合がある。これは同時に、一人親など経済的な事情で就労を優先しなければならない場合、子どもが発達支援の機会を失うことを意味する。通園施設は保育所よりも時間帯が短いことが多く、フルタイム就労との両立は困難であり、親子(母子)通園が求められる場合は離職しなければ通園できない。

 就学後、小学生は学童保育の対象だが、学童保育での障害児の受け入れ率は20年で56.9%であり、すべてではない。本調査では「学童保育を利用している」が11件、「学童保育から断られたか、条件・制約を課された」が11件、「合理的配慮が得られず、利用を控えた」が5件、「障害特性から学童保育に適応困難」が19件あった(複数回答可)。また、特別支援学校在籍児童が学童保育に行く場合、学校から学童保育、またはスクールバスバス停から学童保育まで移動支援が必要になるが、保護者の就労を理由に移動支援が利用できない自治体では、(母)親が付き添うか、自己負担でヘルパーを雇わなくてはならず、学童保育に行くことが両立支援にならなくなってしまう。

 障害児支援である放課後等デイサービス(以下、放デイ)には、小学生から高校生までが放課後や学校休業日に通所できるが、特に学校休業日の開所時間が学童保育より短い事業所が多い(図4)。送迎のある事業所では、開所時間よりもその分長く支援を得られるが、送迎のない事業所もある。12年に放デイが開始されたことで、パートタイムを中心に母親の就業率は上がったと考えられるが、前述のように本調査での就業率は55.3%にとどまっていた。

 また、放デイの事業所数には地域差があり、厚労省「資料3」によると、児童1000人当たりの事業所数は、最も多い沖縄県では2.06事業所であるのに対し、最も少ない新潟県では0.67事業所、東京都では0.76事業所だった。全国には事業所0の市町村もある。重症心身障害児(以下、重心児)や医ケア児を受け入れる事業所は少なく、地域や子どもの状態によっては放デイが不足し、「待機児童」が発生している。

 厚労省は16年に障害児の家族の就労支援には日中一時支援などを活用するようにとの通知を出している。日中一時支援は見守り・介助を中心とした預かりを行うが、市町村が実施する地域生活支援事業における任意事業であるため、運用状況は自治体によって異なる。自治体、事業所によっては利用日数や時間帯が保護者の就労の都合と合わない場合もある。障害児サービスの利用者は前述のように34万9465人であるが、日中一時支援の利用者は1万9964人(17年度)と桁違いに少ない。

 以上のように、保育所、学童保育による両立支援は障害児親子にとっては不十分であり、多くの障害児が受けている障害児支援は両立支援をせず、日中一時支援や移動支援の実施状況には地域差がある。結果として、障害児の母親の就業率は低くなり、こうした状況で特にフルタイムで働く場合には複数のサービスをつなぎ合わせたり、自己負担でヘルパーを雇ったり、職場に理解や配慮を求め、家族総動員でケアのやりくりをしなくてはならない。

 本調査でフルタイム就労している母親の大半にはそうした状況が見られ、サービス利用数の最も多い方では放デイ、日中一時支援、移動支援、緊急介護人、さらに自己負担での有償サービスの5種類を組み合わせていた。複数のサービス利用には支援者が増えるという利点はあるが、母親の就労の観点からは、事業所探しやそれらのコーディネート、日々の連絡などの労力が大きい上に費用もかさみ、学童保育のみでフルタイム就労が可能になる定型発達児の保護者と比べて公平性に欠ける状況に置かれているといえるだろう。

図4 通所している放デイの学校休業日の開所時間

 ◇家族による支援の問題点

 就労時間に対応する両立支援策がない状況で働くには、家族内でのケアの分担・協力が必要になる場合もある。就労者に障害がある子どもへのケアの分担・協力状況を尋ねたところ、「平日、配偶者と分担している、または配偶者から協力がある」が47.5%、「平日、きょうだい児からの協力がある」が29.1%、「平日、祖父母からの協力がある」が13.5%だった。障害のある子どもへの見守り・介助などのケア自体は有意義な体験であっても、特にきょうだい児と祖父母によるケアへの依存には問題がある。

 きょうだい児が障害のあるきょうだいの見守り・介助をすることによって、自身の学習や部活動、交友関係などを抑制せざるを得ないことがある。いわゆるヤングケアラーである。ヤングケアラーについては近年、実態調査や必要な支援へつなぐ取り組みが始まっているが、親が就労しているために見守り・介助を伴う留守番などをしている場合、親への両立支援をしなければ状況は改善しない。

 祖父母による支援は、子どもの障害の有無にかかわらず、幼少期にはよくあることだろう。子どもに障害がある場合の特異性は、ケアが長期化することだ。例えば、子どもに知的障害がある場合、軽度の中高生であれば、留守番や一人での一定程度の外出は可能になることもあるが、重度だと、中高生であっても常時の見守りや介助が必要であることが多い。子どもの成長とともに祖父母は高齢化し、自身に介護が必要になることもあり得るため、祖父母による支援は持続可能とはいえない。

 また、子どもとの意思疎通が相当に難しい場合や、多動やパニック、自傷・他害などがあって対応が難しかったり、医療的ケアがあったりすると、祖父母が近くにいても支援を望めないことがある。本調査では、「障害特性への対応が難しく、祖父母に支援を頼めない」が20%、「医療的ケアがあり、祖父母に支援を頼めない」が6.3%と、全体の約4分の1は祖父母からの支援を望めない状況にあった。言うまでもなく、祖父母が遠方に居住していたり、他界していたりすれば、日常的な支援は得られない。

 ケアニーズが高い子どもがいれば、家族内で協力し合うことは必要だが、子どもの障害に配慮した両立支援策がないために、母親の就労または家族の誰かの生活に制約や負荷が課されているのが現状だといえるだろう。


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