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離島やへき地も含めた県民の医療へ貢献
~島しょ県の特徴生かした医学教育に取り組む-琉球大学医学部~


インタビューに答える筒井医学部長

インタビューに答える筒井医学部長

 ◇人の役に立ちたいという思いから医学の道へ

 20年に就任した筒井医学部長が医師を目指したのは高校時代のこと。将来の職業を考えた時、一番やりがいのある仕事だと思ったからだと言う。

 「親戚に医師がいたというわけではありません。世の中で最も尊いものは命です。人の命を預かる医師になって、やりがいを感じる仕事がしたいと考えました」

 産業医科大学を卒業後、福岡県にある麻生飯塚病院の循環器内科で研修医として2年間勤務した。

 「麻生飯塚病院は救急患者の数が全国でもトップクラスの病院で、非常に忙しい日々を送りました。循環器内科では九州大学の先生方と一緒に仕事をしたのですが、臨床をしている時でも研究の話をされていて、その時に『リサーチマインド』という言葉を教えてもらいました。臨床と研究の両方で世界と渡り合える医師を目指している姿に刺激を受け、その後、大学院へ進学し、アメリカへも留学しました」

 筒井医学部長が長年にわたって続けてきたのが一酸化窒素(NO)の研究だ。21年には、世界的なジャーナル誌「Scientific Reports」に世界初となるNOの研究「一酸化窒素合成酵素系完全欠損マウスに認められた自然発症肺気腫」を発表した。NOは、多彩な作用を有するガス状生理活性物質で、神経型NO合成酵素(nNOS)、誘導型NO合成酵素(iNOS)、内皮型NO合成酵素(eNOS)の三つのNOSアイソフォームから合成されるという。1995~97年の米国メイヨークリニック留学時には、血管におけるeNOS遺伝子治療に取り組み、研究結果を報告した。

 帰国後もNOに関する研究を続ける中で、NOSsの三つのアイソフォームが欠損した「完全欠損マウス(トリプルノックアウトマウス)」において、外的要因によらず肺気腫が発症することを突き止めた。

 「トリプルノックアウトマウスで研究をしていると肺気腫が起きてくることが分かりました。NOSがないと肺気腫が発症する。つまり、正常な人ではNOSがあるから肺気腫が予防されているということが分かってきたのです。これは世界で初めての発見です」

 肺気腫は慢性気管支炎を伴うことも多く、現在ではそれらの病態を総称した慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)として診断されるようになっているが、日本におけるCOPD患者は高齢化に伴い増加傾向にある。同研究の成果により、新たな治療法の開発も期待されている。

 筒井医学部長は、自らの経験を踏まえ、若い頃からの基礎研究の重要性を指摘する。

 「今は皆さん、大学院に行く方が少なくなりました。これは医学研究の危機でもあります。医学部長として、これからは研究の楽しさや大切さを伝えていくことも課せられた使命だと考えています」(ジャーナリスト/美奈川由紀)


 筒井 正人(つつい・まさと) 1988年3月産業医科大学医学部卒業。産業医科大学医学部第二内科学助手、講師などを経て、2001年6月産業医科大学医学部薬理学准教授。09年6月琉球大学医学部薬理学教授、13年琉球大学医学部副医学部長、18年4月琉球大学医学部医学科医学科長、21年4月から現職。

【琉球大学医学部 沿革】
1965年 佐藤栄作総理が来沖し「琉球大学に医学部を設置」と声明を出す
      琉球政府内に琉球大学医学部設置構想委員会が設置
  68年 琉球大学保健学部設置
  69年 保健学部の第1期生59人が入学
  79年 琉球大学医学部設置
  81年 保健学部が医学部保健学科に改組
      医学部医学科設置
  04年 国立大学から国立大学法人へ変更
  12年 おきなわクリニカルシミュレーションセンター竣工

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