インタビュー

ギャンブル依存症対策を強化へ~民間支援団体代表に聞く─大阪、長崎のIR計画で~


レジャー産業の展示会で行われたカジノのカードゲーム(2014年)=AFP時事

レジャー産業の展示会で行われたカジノのカードゲーム(2014年)=AFP時事

 ◇オンラインカジノが若者を侵食

 ──予防教育や普及啓発はどう行えばよいか。

 予防教育は、学校で行うには限界がある。多くの子どもが視聴する動画投稿サイト「ユーチューブ」でギャンブル依存症予防の広告を大量に流せば効果的ではないか。自分の意思では治せない病気で、誰でもかかる可能性があることを知らしめるべきだ。

 若年期にギャンブル依存症になると、大学なども中退して就職もできなくなる。当団体には、20代前半で発症した患者の親からの相談が増えている。若者の場合、長い時間をかけてギャンブル依存症から回復しても就職しにくいのが現実だ。だから再発もしやすい。

 成人向けの普及啓発も同様だ。テレビCMでは、公営競技の開催案内やパチンコの新台情報を1日に何度も見掛ける。本来ならこれらと同じ程度の分量で、ギャンブル依存症の恐ろしさを一般に知れ渡るまで広報する必要がある。

 ──コロナ禍で変化は。

 オンラインカジノの侵食が大きな変化だ。山口県阿武町の誤給付問題で注目されたが、コロナ禍で外出できなくなった若者が24時間利用できるオンラインカジノに手を出している。運営業者は国外にいるため、実態が見えにくく深刻な問題だ。当団体に寄せられる相談も、20代の子どもがオンラインカジノにはまっているという親からのものが多い。インターネット投票ができる公営競技も、若者の利用が増えている。

 政府は、オンラインカジノは違法との見解を示しているが、摘発例はほとんどない。ネット検索するとオンラインカジノの広告がたくさん出てくる状況は異常だ。一日も早く規制してほしい。

 近年のギャンブルの恐ろしさは、家にいながら依存症に陥る可能性があることだ。オンラインカジノだけでなく公営競技も、利便性向上のためオンラインで掛け金を決済できる。国や自治体はギャンブルの変化に対応した対策を講じる必要がある。

 ──人材育成については。

 精神科の医師でもギャンブル依存症に詳しくない人は多い。都道府県から治療拠点に指定されている病院に行っても、常に専門的な治療が受けられるわけではない。われわれの支援した自殺リスクの高い患者の入院が何度も断られたケースもあった。

 大阪府はIR開業前に「大阪依存症センター」を設置して、各市町村にギャンブル依存症患者の相談に乗る支援員を配置する計画だ。専門的な知識がある人材の育成は、最低でも5年は必要。費用も多く掛かるだろう。

 私は、ギャンブル依存症患者の治療を後押しして、回復後に支援に回ってもらう「ピアサポート」が最も効率的と考えている。当団体でも、患者を支援しているのは元患者とその家族だ。この病気のつらさは当事者にしか分からないことが多い。そのため、われわれのような民間支援団体に少しでも運営費を補助してほしい。

田中代表の呼び掛けで、大阪府議らが参加したギャンブル依存症のシンポジウムの様子

田中代表の呼び掛けで、大阪府議らが参加したギャンブル依存症のシンポジウムの様子

 ◇運営側が財源拠出を

 ──IR誘致自治体の取り組みは。

 大阪府と長崎県は誘致する以上、ギャンブル依存症対策のトップランナーになることを義務付けられている。大阪府の取り組みしか知らないが、現状だとギャンブルを含む依存症への対策費は年間わずか約5200万円だ。府からは1団体当たり30万円の補助金が交付されるが、人件費などには充てられない。また、毎年異なる事業の実施を義務付けられるなど使い勝手が悪い。この点はすぐに改善すべきだ。

 大阪府議会では、ギャンブル依存症対策の推進条例が議員提出され、このほど成立した。対策に必要な財源を賄うための基金新設が盛り込まれており、一歩前進だと思う。企業から寄付を募ることを想定しているようだが、積極的な税金の拠出も必要だ。

 ギャンブル依存症対策に必要な財源は、カジノや公営競技などの運営組織から拠出させるべきであり、国が法律で規定すべきだ。

 ──治安対策はどうか。

 IRのカジノが、違法な闇カジノへ誘導する新たな入り口になることを懸念している。警察官を増やしても、闇カジノの関係者は必ずIRのカジノに出入りする。客同士で誘い合うことも考えられる。当団体では、大阪府内に少なくとも4カ所の闇カジノが長年営業していることを突き止めている。暴力団の資金源になっており、カジノ誘致の前に、まずこうした闇カジノを摘発するのが先決だ。(時事通信社「厚生福祉」2022年12月02日号より転載)

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