インタビュー

ギャンブル依存症対策を強化へ~民間支援団体代表に聞く─大阪、長崎のIR計画で~

 大阪府と長崎県が申請中のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画について、政府は年内にも認定可否を決断する。地域経済の活性化が期待される一方、ギャンブル依存症患者の増加を懸念する声も根強い。政府や自治体が講じている対策の問題点について、民間支援団体「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都中央区)の田中紀子代表に話を聞いた。[聞き手=今泉 勝記者・時事通信大阪支社]

パチンコをする人々(2019年、東京都新宿区)=AFP時事

パチンコをする人々(2019年、東京都新宿区)=AFP時事

 ◇ドーパミン障害の病気

 ──ギャンブル依存症とはどんな病気か。

 脳内の神経伝達物質「ドーパミン」の過活動により、ギャンブルをやめようと思ってもやめられない状態に陥るのが特徴だ。「だらしない人がかかる病気」というイメージを持たれがちだが、実際は年齢や性別、職業、学歴に関係なく罹患(りかん)する。公務員や大企業の幹部ら責任ある立場の人でも、プライベートでギャンブルにはまっている人はいる。ドーパミン障害という病気なので、同じぐらいギャンブルをしていても、依存症になりやすい体質の人とそうでない人がいる。うつ病を併発することも多く、自殺リスクは高い。

 厚生労働省が2017年に公表した全国疫学調査の結果では、過去1年以内にギャンブル依存症が疑われる状態を経験した成人が0.8%と推計され、人口換算だと70万人に上る。IR計画を申請中の大阪府では約4万9000人、長崎県は約7000人となる計算だ。

 ──治療はできるか。

 うつ病やアルコール依存症は国が承認した治療薬がある一方、ギャンブル依存症には現状、治療薬はない。回復に最も効果的なのは「グループセラピー」で、同じような経験を持つ人同士がミーティングを重ねることだ。回復施設に入所したり、自殺の恐れがある場合は入院したりするケースもある。

 国内には、ギャンブル依存症患者を対象としたグループセラピーを行う自助グループが約200あるといわれている。根気よく通い続けて、ギャンブルをやめている状態を継続することが唯一の治療法だ。回復には最低2年かかる。

 私自身も元患者で、かなり重症だった。自助グループに通い、良い出会いがあって運よく回復した。それからは、ギャンブル施設に極力近寄らないようにしている。ギャンブルは適度に遊べるなら良い刺激だ。しかし、体質的に適度に遊べなくなる人がいる。それが自分かもしれないと自覚してほしい。

著書を持つ「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表

著書を持つ「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表

 ──民間支援団体の役割は。

 早期発見と、家族以外の第三者による早期介入が重要だ。家族だと、どうしてもギャンブル資金を援助するなど「甘え」が出てしまうので、われわれのような民間支援団体に相談してほしい。私が代表を務める団体と対を成す支援組織「全国ギャンブル依存症家族の会」が、33都道府県にある。患者の家族から相談を受け、自助グループにつなぐのが主な役割だ。

 14県には家族の会の支部がない。つまり、ギャンブル依存症患者の支援が極めて手薄ということだ。民間支援団体は行政からの財政支援をほとんど受けられず、運営メンバーが手弁当で支えている。

 ──支援活動の実態は。

 患者も苦しんでいるが、支援する側もつらいのが実情だ。今年の3~5月に当団体の支援していた患者が立て続けに自殺した。

 一人は、離婚して実家に戻ってきた40代男性。家族がギャンブル資金を提供していたが、私が家族を説得して「もうお金は渡せない」と患者本人に伝え、われわれとも直接話し合い、「頑張ります」と応じてくれた。しかし、その翌日に自殺した。おそらく自暴自棄になったのではないか。

 もう一人は、大学時代から公営競技にはまった30代前半の男性。ギャンブル依存症で大学を中退して引きこもりになり、自殺未遂もした。症状が重かったので入院も経験している。退院後は1人暮らしをしながら、通所型の回復施設に2年ほど行っていた。でも就職は難しく、将来を悲観したのか、今春に自殺してしまった。他にも患者の家族が家を売って全財産を失うなど、悲劇はそこら中にある。

 ◇基本法制定も対策進まず

 ──政府や自治体のギャンブル依存症対策をどう見る。

 日本は競馬などの公営競技だけでなく、街中にパチンコ店が立ち並ぶ世界でも珍しい「ギャンブル大国」だ。昔から多くの患者が存在し、この病気が原因とみられる悲惨な事件も数多く起こっている。にもかかわらず、公的な対策は非常に遅れていた。

 当団体はもともと、IR計画には中立的な立場だった。18年にIR実施法とセットで成立したギャンブル等依存症対策基本法に基づき、政府や自治体の対策が進むと期待したからだ。それから4年たったが、政府や大阪府、長崎県を含め目立った進展はない。対策が中途半端なまま計画が進むことを非常に危惧している。

 ──どこに問題点がある。

 対策で最も重要なのは、徹底的な予防教育や普及啓発、依存症患者を支える人材の育成だ。これらに投入する国の予算が少な過ぎる。今年度に国が計上したギャンブルやアルコール、薬物などあらゆる依存症の対策予算はわずか約9億9000万円。実際にギャンブル依存症対策だけに使われている予算は極めて少ないはずだ。アルコール依存症と異なり、ギャンブルである公営競技やIRのカジノは国が主導している。国が大幅に予算を付けるのは当たり前だ。

  • 1
  • 2

新着トピックス