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「手荒れ」に悩む医療現場
感染症対策に不可欠、手指の衛生

 インフルエンザやノロウイルスの感染拡大対策として、最も重要な対策の一つがアルコール消毒剤による消毒や流水とせっけんを使った手洗いといった手指の衛生(洗浄)だ。特に複数の患者と接触せざるを得ない医療現場では、二次感染を防ぐなど感染制御の観点から徹底が求められるのは当然だ。一方で、消毒を繰り返すことで皮膚表面の皮脂が奪われて乾燥が進むために手荒れがひどくなる。「手荒れの傷口が染みて十分に消毒や洗浄ができない」という現場の声もある。患者から医療者、医療者から他の患者への二次感染対策もあって手指洗いは欠かせないが、「原則として担当患者1人当たり、1日20回」を目標としている。医療現場の悩みも大きい。

東京医科大学病院の渡辺秀裕教授

 ◇1日60回の手洗いも

 「入院患者3人を担当している病棟の看護師は1日60回、手洗いや消毒用アルコールの使用が求められる。それを守らないと院内感染の危険性が上がるが、スタッフの皮膚への負担は大きく手荒れなどに悩まされる。手荒れは痛みや染みの原因となるだけではなく、細菌やウイルスが付着しやすくなる。難しい課題だが、何とかしなければならない」

 東京医科大学病院で院内感染の制御などを担う感染制御部部長の渡辺秀裕教授は「手指衛生の徹底には手荒れ対策が欠かせない」と説明する。以前、同病院での1患者当たりの手指衛生回数は1日平均で11.9回から15.3回と「同規模の大学病院の中では中程度だが、一回も目標を達成できなかった」と渡辺教授は言う。しかし、2017年以降に制御部に感染認定看護師2人が増員され、看護師3人を中心に積極的な啓発活動を展開したところ、回数は13.9回から22.5回と大きく伸びた。同時に浮かび上がってきたのが、「手が荒れて困る」という問題だった。

好評だった手荒れ相談コーナー

 ◇相談コーナーを開設

 このため感染認定看護師らが主体となり感染制御部は18年11月、5日間にわたって昼休み時間に職員食堂前の廊下に「手荒れブース」を開設。皮膚科医や皮膚の状態に詳しい床ずれの専門看護師の協力も得て、手荒れに関する相談に応じたり保湿剤を紹介したりする取り組みを始めた。結果は大好評で、連日100人近くがブースを訪れ、相談コーナーには毎日15人前後が詰め掛けた。相談者の中には、「これ以上悪化したら皮膚科を受診して」と言われた看護師もいたという。全職員を対象にした手荒れに関するアンケートも実施。渡辺教授は「アンケートに関しても、看護部の回答率は100%近く、相談者も多かった。今回のアンケート結果を分析するとともに、できれば数年ごとでいいので同様のアンケート調査を実施してみたい」と語る。

 ◇家庭でも対策を

 手荒れの問題は病院など医療施設に限らない。介護施設はもちろん、家族の看護や介護に在宅で携わっている人でも、食事の提供の前後や排せつ処理の後、必要であれば体位の交換ごとに手洗いや消毒をする必要があるからだ。

 手荒れに関し、スキンケアに詳しい野村皮膚科医院(横浜市)の野村有子院長は「冬は乾燥しやすく、ただでさえ皮膚の保湿は必要となる。そこに乾燥を進行させる手洗いやアルコール消毒が加わるのだから、手荒れを防ぐには積極的な対応をしなければならない」と強調する。

保湿剤やクリームはたっぷり、指の第一関節に乗る程度の量を

 重要なことは手全体へのケアだ。手のひらにばかり注意しがちだが、手の甲はより皮膚が薄いので、同様に気を付けたい。また指の関節や指と指の間、爪の周囲も比較的乾燥しやすい。

 「手荒れは最初から痛みやかゆみを感じたりすることはない。粉が吹いたように見えたり、かさかさするように感じたりする。このような状態なら保湿剤を使っての保湿で対応できる」と野村院長。手洗いや消毒のたびに塗るのは難しいので、就寝前にたっぷりの保湿剤を手のひらから甲、指先まで成分を浸透させ、血行をよくするためのマッサージをしながら塗り、皮膚の保護・保湿のために木綿の手袋をして就寝するのがいい。

 ◇保湿剤などの量に注意

 この際に注意したいのが、保湿剤やクリームの使用量だ。「時々『塗っているのに効かない』という声を聞くが、多くは十分な量を使っていないのが原因だと考えられる。普通のスキンケアや保湿なら人さし指の爪先から第一関節までに乗る量が標準だ。症状が重い場合などは第2関節の付け根までの量を使ってほしい」と話す。

 それでも皮膚のかさつきが増し、指先などの一部の皮がむけたり、軽いひび割れが出てきたりした場合は、すでに手荒れが起きている。「この場合は保湿成分に加えて血流改善や炎症を抑える効果のあるビタミンEなどを含んだクリームに切り替えた方がよい」と野村院長はアドバイスする。

野村有子野村皮膚科医院院長

 ◇手袋を重ねる

 さらに症状が悪化し、皮膚表面がじくじくしてきたり、痛みやかゆみを感じたりするようになった場合は、もっと日常生活で気を配りたい。スキンケアを継続しながら、洗濯物の取り込みや掃除、新聞の整理などの日常作業にも木綿の手袋を装用したい。特に事後の消毒や洗浄が必要な作業や水仕事の際には、ビニールやゴムの手袋を上に重ね、終了後には交換するか手袋を洗うことで皮膚への負担を軽減したい。「直接ゴム手袋を使うと皮膚を刺激して症状を悪化させることがある。重ねて装着することで、この問題を解決できる」

 こうした対応を心掛ければ、「3日前後で症状が改善し始め、2週間程度で治る。もしそれ以上症状が続いたり、赤く腫れ上がったり、皮膚の割れ目から出血したりするように症状がひどくなれば、皮膚科をためらわずに受診してほしい」と話す。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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