話題 2024/12/19 05:00
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認知症の患者は増加を続け、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推測されている。いわば「普通の病気」となった認知症の発症を防ぐことはできないが、遅らせることはできるのではないか。発症の予兆を察知した上で、医療や家族のケア、運動や音楽などにより、この目標実現を目指す拠点、「健脳カフェ」が東京都新宿区に誕生した。開設したのは「アルツクリニック東京」(東京都千代田区)で、幅広い産学連携によって運営されている。
健脳カフェの風景
◇早期発見が早期絶望に
家族が「変だな」と異常に気が付いたり、医療機関を受診したりして「認知症ではないか」と疑うことがある。これが早期発見につながる。
順天堂大学名誉教授でアルツクリニック東京の新井平伊院長は、認知症の診療には課題があるという。「早期発見をしても外来での治療は薬剤だけしかなく、認知症は進行していく。それが、『早期絶望』につながってしまう」
◇未病の段階から予防
2018年に開業したアルツクリニック東京は「健脳ドック」を実施。早期発見をさらに前倒しして、未病の段階から予防を目指す。認知症のうちアルツハイマー型は60%以上を占める。「アミロイドβ(ベータ)」という、たんぱく質が染みのように広がり、「タウたんぱく」という物質が蓄積する。すると、神経細胞が死滅し脳が萎縮し、認知症を発症する。「未病」といわれる段階は、健常者、主観的認知機能低下、軽度認知障害(MCI)に分かれている。
物忘れを自覚しているが、周囲は気付かない。ただ、仕事や家事に支障が出る。MCIに進むと、周囲が気付くようになる。MCIは年間5~15%が認知症へと移行する。「MCIの段階までなら、医療サイドなどが早期に介入し、発症を遅らせることができる」
アルツクリニック東京の健脳ドック
脳ドックはMRI検査が中心で脳動脈瘤(りゅう)や血管性認知症の発見には有効だが、アルツハイマー型認知症の早期発見には十分ではない。アミロイドβは発症の約20年前から少しずつたまることに注目したのが、アルツクリニック東京の健脳ドックで行っているアミロイドPET検査だ。
◇発症遅らせる二次予防
この検査で認知症発症の恐れがあると診断された場合にどうすればよいのか。新井院長は「一次予防は発症させないことだが、現状では難しい。未病の人たちを対象に、発症を遅らせることが二次予防だ」とし、「健脳カフェ」を「先制医療的拠点」と位置付ける。
アルツクリニック東京の新井平伊院長
「健脳カフェ」は、認知症の人や家族らの交流の場として全国で普及しつつある「認知症カフェ」とは目標が異なる。新井院長は「『認知症カフェ』ではなく、未病を対象とした二次予防が中心の『認知症予防カフェ』だ」と説明する。
◇学生が来場者と交流
「健脳カフェ」には、上智大学・老年心理学研究室の学生たちが参加する。談話コーナーでの世代間交流や認知リハビリテーションなどを応用した心理プログラムの実施などに携わる。同大学総合人間科学部の松田修教授(保健学)は「研究室では高齢者や病気、障がいのある人に対する心理学的評価と心理プログラムの開発を目指している。学生は学びの場として参加しながら、カフェにやって来る人たちの心の健康に貢献してほしい。あそこに行けば楽しい。もう一度来たい。来場者がそう思ってくれるような場を学生と一緒につくっていきたい」と話す。
談話コーナーで来場者と大学生が交流
「認知症の人と家族の会」東京都支部は1980年、「呆け老人をかかえる家族の会」として発足した。「認知症になったとしても、介護する側になったとしても、人としての尊厳が守られ、日々の暮らしが安逸に続けられなければならない」ことを理念とする。同支部の大野教子代表は「私たちは患者の家族との対話を主に活動している。経験者だから分かるが、患者本人が一番つらい思いをしていることを伝えたい」と話す。「健脳カフェ」には同支部の相談室が設けられる。
カラオケ機器を用いたトレーニング
◇エビデンスを発信
脳トレーニング(脳トレ)などについて、エビデンス(医学的証拠)に欠けるのではないかとの見方もある。新井院長は「薬の治験は3相(3段階)にわたって実施され、エビデンスを積み上げる。脳トレや非薬物的療法の場合は、そういう治験は難しい」とした上で、「実際の臨床の観点からは、こうした試みをやらないよりもやった方がよいと考える」と話す。その上で「当面、(施設の)数を増やさずに基礎を固め、エビデンスを発信していきたい」と意欲を示す。
健脳カフェの運営には、生涯健康社会推進機構や日本音楽健康協会、スポーツクラブ運営や乳製品メーカーなどの団体・企業が協力する。
活動コーナーで行われる運動教室では、高齢者や体力に自信がない人でもできる筋力向上のための運動プログラムを紹介している。トレーニングマシンを用いず、簡単にできる点が特徴だ。エンタメルームでは、カラオケの機器を使った「健康ボイストレーニング」を実施する。「兎(うさぎ)追ひし彼(か)の山 小鮒(こぶな)釣りし彼の川」。記者が体験したのは、「故郷(ふるさと)」を歌いながら手や指などを動かすトレーニングだ。曲数は豊富。担当者は「コロナ禍であることを踏まえ、歌わなくてもできるバージョンも増えています」と言う。(了)
(2021/07/29 05:00)
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