治療・予防 2024/11/18 05:00
筋肉の硬直やけいれん
~スティッフパーソン症候群(徳島大学病院 松井尚子准教授)~
心不全はあらゆる循環器疾患の「終末像」と言われる。その主な原因は心臓弁膜症だ。しかし、息切れや動悸(どうき)、足のむくみなど症状が加齢による体の変化と似ているために病気だと気付かないことも多い。体の変調を感じたら、専門医を受診し「心臓の音」を聴いてもらうようにしたい。
ドキドキするのは心臓弁膜症かもしれない=エドワーズライフサイエンス提供
◇心不全パンデミック
高齢者の脳卒中を含む循環器病の死亡者数は、がんの死亡者数とほぼ同じだ。後期高齢者の死因トップは循環器病となる。
循環器病である心臓病の中で死亡原因の第1位は心不全で、高血圧性を除く虚血性心疾患や急性心筋梗塞などを大きく上回る。日本の心不全患者数は約120万人で、毎年役1万人ずつ増加している。これを専門家は「心不全パンデミック」と呼ぶ。
◇命を縮める病気
東京大学大学院の小室一成教授(循環器内科学)は「心不全はあらゆる循環器疾患の終末像だ」と話す。日本循環器学会と日本心不全学会の合同ガイドラインは「心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、命を縮める病気だ」と定義している。
心不全に至るのは心臓弁膜症が200万人、虚血性心疾患と心房細動(不整脈)がそれぞれ80万人と推定されている。
◇4回の「予防」のチャンス
心不全の予備軍から心不全の発症・重症化までは四つのステージがある。ステージAは高リスクの人たちだが、心機能に異常はなく、心不全の症状もない。ステージBは心機能に異常はあるが、心不全の症状はない。ステージCは心機能が異常で、心不全の症状がある。ステージⅮの状態はⅭと同じだが、治療の難易度は増す。
小室教授は心不全に関して「4回の『予防』のチャンスがある」と言う。ステージAとBは当然ながら、発症の予防だ。ステージCでは症状のコントロールと医療機関への入院予防。最終のステージⅮでも、再入院の予防が課題となる。
正常な弁と障害が起きた弁=エドワーズライフサイエンス提供
◇多い大動脈弁狭窄症
心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の四つの部屋に分かれ、各部屋には大動脈弁、僧帽弁、三尖(さんせん)弁、肺動脈弁という弁がある。弁には、血液が一方向に流れるようにし、逆流を防止する働きがある。心臓弁膜症は弁に障害が起き、その働きを十分に果たせなくなる。主に、弁の開きが不完全なために血液の流れが妨げられる狭窄(きょうさく)と弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流する閉鎖不全に分類される。
心臓弁膜症の有病率は加齢とともに上昇し、潜在患者は65~74歳で約148万人、75歳以上で約245万人と推定されている。心臓弁膜症はどの弁でも起きるが、大動脈弁が十分に開かなくなるために狭い出口から血液を送り出す心臓に負担がかかる大動脈弁狭窄症が最も多く、4割を超える。
体がだるかったり、疲れやすかったりする=エドワーズライフサイエンス提供
◇加齢変化に似た症状
心臓弁幕症の症状は、息切れをしたり、胸がドキドキしたり、足がむくんだりすることだ。体がだるかったり、疲れやすかったりすることもある。これらは加齢に伴う体の変化と似ているため、「年のせいだ」と考えがちだ。病気であることに気付きにくいという問題がある。これは大動脈狭窄症にも当てはまる。
そこで、小室教授は「半年前と比べた変化に注意したい」と言う。散歩の途中で立ち止まる、洗濯物を干す時に息切れがする、足早に歩くと胸が痛むことがある―といったようなことだ。
◇重要な聴診
心音を聴診器で聴くのは重要な診断方法だ。しかし、心疾患治療用製品などを手掛けるエドワーズライフサイエンスが65歳以上の高齢者800人を対象に行った調査によると、「年に一度は一般的な健康診断を受けると回答した人が66%だったのに対し、「年に一度は聴診を受けている」という人は27%にとどまっている。
小室一成教授(左)と梅澤富美男さんによる聴診のデモンストレーション
小室教授は「まず聴診を受けてほしい」と強調。「大動脈弁狭窄症の場合だと聴診で、心臓の雑音がはっきりと分かる。次にエコー図検査(超音波検査)で詳しく調べる」と説明する。大動脈弁狭窄症は進行性のため、定期的な検査が大切だ。
エドワーズライフサイエンスは認知度が低い心臓弁幕症をより多くの人に知ってもらおうとテレビコマーシャルなどを通じた啓発活動を始めた。コマーシャルに出演した舞台役者・タレントの梅沢富美男さんは「年を取れば誰でも自然と胸の痛みが出てきたり、息切れなんかもしやすくなったりするものだと思っていたが、心臓弁膜症のことを知って驚いた。私も皆さんも『いつもと違うな』と思ったら、かかりつけ医での心音チェックにぜひ行ってみましょう」とのメッセージを発信する。
◇二つの手術治療
重症の大動脈弁狭窄症には手術が勧められており、二つの方法がある。「開胸手術」は胸を開いて異常のある心臓弁を取り除き人工弁に取り換える。それよりも新しい「カテーテル治療」は、カテーテルという細い管状の器具を足の付け根などの血管から挿入して人工弁を心臓まで運ぶ。2013年から公的医療保険が適用された。小室教授は「開胸手術で人工弁に換えると、20~30年はもつ。カテーテル治療は傷口が小さく、体への負担が少ない。ただ、合併症の問題も考慮しなければならない」と言う。75歳以上であればカテーテル治療を、それよりも若い世代には開胸手術という選択肢がある。
患者の年齢や身体的特徴、他の病気の有無などの要素を考慮した上で、患者の価値観や希望を踏まえて弁膜症の治療チームが決定する。(了)
(2022/06/13 05:00)
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