治療・予防

寿命が10年縮む糖尿病
~大切な血糖値の自己管理~

 日本で糖尿病が強く疑われる人や可能性を否定できない人は合わせて2000万人に上る。国立国際医療研究センターの大杉満・糖尿病情報センター長は統計データを基に「糖尿病ではない人に比べ、糖尿患者の平均寿命は10歳程度短いという報告がある」と、その脅威を警告。血糖値の「見える化」による自己管理と和食などを中心とした食事療法の大切さを説いている。

糖尿病になると寿命が縮む

 この病気は若年期から発症し、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンの分泌不全のためにインスリン補充が欠かせない1型と、インスリンの効果が徐々に低下して血糖値が上昇してしまう2型に分かれる。糖尿病患者の平均死亡時年齢と一般の平均寿命を比較すると、1991~2000年は男性で9.6歳、女性で13.0歳、01~10年では男性8.2歳、女性11.2歳の差がある。

恐ろしい糖尿病の合併症

 ◇怖い合併症

 糖尿病が怖いのは、その合併症だ。網膜症では視力低下を招き、悪くすると失明する。腎臓の病気(腎症)は浮腫に加え、人工透析を余儀なくされることも多く、患者にとって大きな負担だ。2020年に新たに透析治療を始めた38549人のうち、糖尿病性腎症が40.7%を占めている。神経障害では、感覚の低下や足の壊疽(えそ)を招く恐れがある。足の壊疽で下肢を切断するケースも少なくない。これらは糖尿病特有の合併症で、高血糖値を放置することで起こる。

 糖尿病の患者が罹患(りかん)しやすくなる症候群に、大血管障害や動脈硬化症がある。大血管障害は脳梗塞や心筋梗塞の原因となる。動脈硬化症になると血管の内腔が狭くなり、血流が滞ることがある。心臓や血管の病気のリスクは、糖尿病のある人だと3.5倍に高まる。大杉センター長は「糖尿病『予備軍』は何も症状がない。しかし、インスリンが十分に働かない状態は既に始まっており、動脈硬化は予備軍の時から始まると考えてほしい」と言う。

 糖尿病になると、冠動脈疾患が増加する。そのリスクは4.37倍、予備軍でも1.74倍になる。特に31~40歳では、糖尿病のある人の冠動脈疾患リスクは17.3倍にも高まる。

 ◇持続グルコース測定

 糖尿病の診断に用いられ、血糖管理状態の指標ともなるのがHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)だ。血液検査で調べ、健康診断の項目に入っていることもある。ただ、採血時から過去1~2カ月間の平均血糖値を反映しているため、食後高血糖や低血糖を確認することができない。

 「持続グルコース測定(CGM)」は、センサーで細胞の間にある液中のグルコースを測り、血糖値に換算する。以前の機器による1日数回の測定では困難だった高血糖や低血糖を把握できる。大杉センター長は「それまで『点』だったものを『線』で捉えられるようになった。患者にとって、より良い治療ができる選択肢が増えた」と評価する。

健康面から注目されている地中海食

 ◇和食と地中海食

 糖尿病と診断されても軽度であれば、医師はまず「食事運動療法」を指導する。食事は和食がお勧めだ。小鉢で断続的に料理が出るのが伝統的なスタイルで、一気に大食いすることはない。米飯に偏らず、魚や野菜、大豆製品などをバランス良く取りたい。

 地中海食も健康の面から注目されている。オリーブ油が主な脂質源で、野菜や果物を多く食べる。ナッツ類や豆類、芋類などの摂取量も多く、牛肉や豚肉は食べるが少量だ。地中海食は心筋梗塞や脳卒中などを原因とする死亡のリスクを減らすことが報告されている。

 ◇有酸素運動と無酸素運動の組み合わせ

 運動では、歩いたり、走ったりする有酸素運動が一つの柱だ。もう一つは、筋肉トレーニングなどの無酸素運動。大杉センター長は「両者を組み合わせるのが効果的で、できる限り二つともやってほしい」と話す。

 時間的な目安としては、中強度の運動を週に150分、高強度の運動を週に75分程度行うのが効果的だ。(了)

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