一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第9回)手術実績に集まる信頼=教授への道目指す

 ◇「今は我慢の時」

 上山氏はわずか2時間で腫瘍を完全に取り除き、術後、患者は顔面神経まひが残ることもなく、元気に退院していった。後輩からも「こんな完璧な手術を初めて見せていただきました」と言われ、若手からの信頼を集めていった。上山氏が手術をすれば、患者が助かる。腕の良さは一目瞭然。周囲の病院がほっておくわけがない。

 当時の上山氏の肩書は、まだ講師だったが、術前検討会で執刀医が手術内容を確認する時、「これでよろしいですよね、上山先生」と、後輩たちから最終的な判断を委ねられる場面も増えてきた。

 部長待遇で来てほしいという他病院からの誘いも来るようになった。上山氏も思うように手術ができない大学にいるより、他の病院に行った方が自分のためにも患者のためにもなる、と考えていた。しかし、行き先は他の医師に割り振られた。

 こうした状況の中、上山氏は「将来は教授になりたい」と思うようになる。「伊藤先生の教えを広める意味でも自分がトップに立った方がいい。今は我慢の時だ。次の世代、俺が教授になったら変えていけばいい」と自分に言い聞かせた。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

→〔第10回へ進む〕手術で患者が死亡=土下座し謝罪

←〔第8回に戻る〕北大戻るも、居場所なく=手術器械、干された時間に開発

  • 1
  • 2

一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏