女性アスリート健康支援委員会 失敗から学んだ女子指導の鍵

心開かせた「再建請負人」
もっと出てほしい女性指導者―柳本晶一さん


 ◇男子以上にコミュニケーションは大事

 アテネ五輪予選の韓国戦で選手に指示を出す日本代表の柳本晶一監督(当時)=2004年5月、東京都渋谷区の東京体育館
 柳本晶一さんは、2003年に全日本女子監督に就任した。チームの再建を託され、旧来のやり方を思い切って変えた。それまでの全日本チームは特定の強豪クラブを軸にする傾向があったが、純粋にトップアスリートを選んで集める形に変えたのだ。ふだんはライバルとして別々のチームに所属し、プライドも高い選手たち。彼女らを一つの力にまとめるために、監督自らがまず心理的な壁を取り払うことに努めた。

 東洋紡を率いた時の経験が、全日本でも役立った。柳本さんは、主力の一人でムードメーカーでもあった高橋みゆき選手の思い出話を披露してくれた。

 「私たちは日の丸を背負っているわけで、監督と選手の間には親兄弟も入る余地はないですよ。でも練習が終わったらプライベートでも来い、と。いろんな話もしよう、と言ってチームを始めました。それで練習の最後に監督と選手が並ぶでしょう。僕がいろんな話をしてから、選手が『ありがとうございました』と。それで『ご苦労さん』と言ったとたんに、高橋は僕のことを『しょうちゃん』と呼びましたからね。それはなんぼなんでもあかんやろ、と(笑)」

 柳本さんによれば、高度成長期はカリスマ的な男性監督の「俺についてこい」的という指導スタイルが適していたが、もうそんな時代ではない。柳本さんは女子のチームは男子チーム以上にコミュニケーションが大事になることを学んだ。

 ◇女性スタッフの力借り体調把握

 とはいえ、相手が女性選手である場合、男性指導者には入りにくいデリケートな領域もある。柳本さんは2004年アテネ五輪で指揮を執った時には、1964年東京五輪の主将だった河西昌枝さんに団長をお願いした。全日本女子でプレー経験のある女性をマネジャーに起用するなど、女性スタッフの力を積極的に取り入れた。

 厳しい練習をするだけに、体調管理は欠かせない。月経痛などの女性特有の問題についても例外ではない。「生理の周期が28日ぐらいとすると、20人ぐらい選手がおったら、3~4人はだぶっています。腰とかの痛みがひどい選手もいるし、そのあたりはスタッフから報告をもらって把握はしていました。理由は『風邪』でも何でもいいんです。帰らせて休ませるとか、『ちょっと医者に診てもらえ』ぐらいのことは僕も言いました」

 女子バレーボール世界選手権3次リーグに向け記者会見した日本の中田久美監督(左から3人目)ら。女子指導者はまだ少ない=2018年10月13日、愛知・日本ガイシホール 
 アーティスティックスイミング(シンクロナイズドスイミング)など女性指導者が活躍する競技もあるが、スポーツは伝統的に男性中心の指導体制がとられてきた。2018年10月に日本で開催された女子バレーボールの世界選手権も、出場24チームのうち女性が監督を務めたのは日本と中国だけだった。

 柳本さんは、もっと女性指導者に出てきてほしいという。

 「女性はよく気が回るし、器用ですよ。女性の気持ちが分かるから、粘り強くチームの中に入っていける。人を使うマネジメント術などを身につければ、面白い世代ができるんちゃうかな。すごく興味を持っています」(冨田政裕)


◇柳本晶一さんプロフィルなど

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