女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える

女性アスリートに多い鉄欠乏性貧血 
原因と望ましい対策は

 貧血は男性よりも女性の方が起こりやすい。原因はさまざまだが、女性アスリートに多いのは鉄欠乏性貧血で、食生活の改善などによる鉄不足の解消がまず必要になる。ところが、中学や高校の陸上中・長距離選手らの一部で、貧血治療を名目に持久力向上を狙う鉄剤注射が行われ、「選手の健康を損なう」と問題化したことは記憶に新しい。

 女性アスリート健康支援委員会が2月1日、東京都内で開いた集会「Female Athlete Conference 2020~女子選手のヘルスケアを考える~」では、国立スポーツ科学センターの元センター長でもある支援委の川原貴会長が「女性アスリート貧血の原因と対策」と題して講演するなど、貧血に関する正しい知識の普及と健康障害の予防に向けた啓発も行われた。

 ◇鉄が不足しやすい成長期

 貧血について説明する川原貴会長
 貧血は赤血球の主成分であるヘモグロビン(血色素)が少ない状態。国内に統一した診断基準はないが、世界保健機関(WHO)は小児・妊婦で血液中のヘモグロビン濃度が1デシ㍑当たり11㌘未満、成人女性で同12㌘未満、成人男性で同13㌘未満であることを目安としている。

 ヘモグロビンは鉄を含み、酸素と結びついて全身に酸素を供給する役割を果たしている。このため、鉄欠乏でヘモグロビンが十分作られず、その濃度が下がると、酸素の供給量が減ってスポーツのパフォーマンスにも影響する。

 川原会長は「トレーニングしているのにパフォーマンスが落ちてきたときは、まずオーバーワークになっていないか、次に貧血になっていないかをチェックすることが大事だ」と述べた。

 鉄が欠乏する原因としては、食事による摂取不足、胃腸の吸収不良に加え、鉄需要の増大、過剰な鉄喪失の計4点があるという。「成長期や妊娠・分娩(ぶんべん)、授乳、運動によっても需要が増えるので、もともと不足しがちな栄養素。月経による出血でも鉄を失ってしまうので、運動していて月経のある発育期のスポーツ選手は貧血になりやすい」と川原会長。

 こうした原因で鉄欠乏が生じても、直ちに貧血になるわけではなく、体内の肝臓や脾臓(ひぞう)などにある貯蔵鉄が使われるが、それがなくなると貧血になるという。顔色が悪くなり、めまいや頭痛、疲れやすさ、動悸(どうき)、息切れなどが表れるのが典型的な症状だ。

 「徐々に進行した場合は、自覚症状が乏しいこともある。スポーツ選手は、日常生活で影響が出る前に『練習がきつくなった』『記録が低下した』と感じることが多い」と川原会長。持久力の指標である最大酸素摂取量と貧血の関係をデータで示した上で、「一般の人は治療しない場合もあるが、スポーツ選手は軽い貧血でもパフォーマンスに影響があるので治療した方がよい」と話した。

 ◇「軽量化戦略」も温床に

 貧血の治療を説明するに当たり、鉄剤注射問題を振り返っておきたい。

 女子駅伝で走る選手たち(写真は本文とは関係ありません)
 スポーツ指導者の間では、選手の体重を管理し、パフォーマンスを向上させようとする場合がある。行き過ぎた体重管理と過度のトレーニングは「体の利用可能エネルギー不足」を招き、無月経や貧血などの温床になると批判されている。

 中高生選手らへの鉄剤注射は、こうした「軽量化戦略」で生じた貧血を一時的に解消し、持久力を向上させる目的で行われたと考えられている。日本陸連は原則禁止を決定し、昨年5月に「不適切な鉄剤注射の防止に関するガイドライン」を策定。同12月の全国高校駅伝では、選手の血液検査を初めて実施し、違反がないかどうかをチェックした。

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