「医」の最前線 乳がんを書く

つらいホルモン療法の副作用
~抑うつ、関節痛を経て、漢方、鍼灸など試す~ (医療ジャーナリスト 中山あゆみ)【第9回】

 ◇ホルモン療法、やめます

 2020年10月に乳がんの手術を受け、放射線治療とホルモン療法が始まった。しかし、ホルモン療法で全身の関節が痛くなり、「こんな状態で生きていくのはつらい」と思い詰めていた。再発のリスクを減らすためにホルモン療法は不可欠だ。しかし、再発するかどうか分からないのに、日々の生活の質が著しく低下するということにへきえきしていた。

関節痛と鬱(うつ)で、どんより

 認定NPO法人「マギーズ東京」で自分の気持ちを整理した、その日の午後の外来診察で、主治医に「ホルモン療法をやめることにしました」と宣言した。ただ「副作用がつらい」と言っても、深刻に受け止めてもらえないと思ったからだ。医師、とりわけ外科医は、日々、ミスをすれば人が死ぬという過酷な状況で働いている。ホルモン療法をしても何の副作用も感じない人もいる。もっと大変な化学療法の副作用を知っている。

 主治医は代替案として、内分泌治療薬の中でもアロマターゼ阻害薬とは違ったメカニズムでエストロゲンの働きを抑える抗ホルモン薬タモキシフェンを提案してくれた。少なくとも関節痛は軽くなると期待して飲み始めた。

 しかし、しばらくすると、体の痛みが改善されないだけでなく、今度は抑うつ気分がひどくなってきた。物の考え方が極端にネガティブになり、どんどん気分が落ち込んでいった。ホルモンの力はあなどれない。

 さらに主治医に相談すると、次の選択肢として、抗ホルモン薬のトレミフェンを処方してくれた。同じような作用機序でも、薬の種類を変えると改善されることもあるという。恐らくこれが最後の選択肢だ。

 幸いなことに、トレミフェンに変えてからは、抑うつ状態も関節痛も軽減され、何とか続けていけそうな気がした。

 ホルモン療法は継続してこそ意味がある。やめたくなっても、根気よく主治医に相談して、自分に合った薬を探していくしかない。医師はきっとそのための協力はしてくれる。

自分に合った薬を根気よく見つけることが大切

 ◇漢方クリニック、鍼灸院、整形外科をはしご

 関節痛は何とか我慢できる程度に落ち着いてきたが、筋肉のこわばりがしつこく続き、わらにもすがる思いで、漢方クリニック、鍼灸(しんきゅう)院にも助けを求めた。

 漢方薬は、皮膚科で手術後に体力が弱っているときなどによく使われる十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)を処方してもらった。連日の放射線治療中に気力、体力が落ちずにいられたのは、このおかげかもしれない。

 インターネットで検索すると、ホルモン療法の副作用軽減に、漢方薬が有効であったケースが紹介されており、痛みにも効くのではないかと期待した。

 知人の紹介で行った漢方クリニックでは、疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)、五積散(ゴシャクサン)が処方された。医師から「痛みには即効性がなく、1年かけて1割楽になる程度」と説明されたが、少しでも楽になりたいと思って飲み始めた。

 即効性があるのは鍼灸だと言われ、紹介されたクリニックにも行ってみた。とても誠実そうな鍼灸師が親身に応対してくれて、一気に期待が高まり、「これで、やっと楽になれる」と思うと、駅までの道すがら涙が止まらなかった。

 しかし、何度目かの施術の後、身体がだるくなり過ぎて、家に着いた途端、午後の早い時間から朝まで眠り込んでしまった。これでは仕事にも支障が出てしまう。気長に調整していけば、最終的に自分の身体に合った治療に到達できたのかもしれないが、その気持ちの余裕が私にはなかった。

 最終的に救われたのは、整形外科のハイドロリリース(筋膜リリース)とリハビリだ。ハイドロリリースとは、超音波で筋膜や周辺の組織を観察しながら、筋膜に生理食塩水などを注射して、筋膜の癒着を剝がし、筋肉の動きを改善させる治療法で、健康保険が使える。痛みの強い肩と太ももの裏側にハイドロリリースをしてもらうと、数回で筋肉のこわばりがなくなった。さらに理学療法士が、動きが悪くなった関節や筋肉をリハビリでほぐしてくれ、自分で良い状態を保てるようなトレーニング方法を教えてくれた。短時間で的確に痛みを改善してくれて、一般的なマッサージとは次元の違う専門職の仕事に感動した。

 がんではなくても加齢に伴い、運動機能は衰えていく。ここで身体のメンテナンス法を学べたことは、今後の人生で大きな財産になるのではないかと感じた。

 ◇6年後の元気な自分を夢見て

 退院後も、乳がんの取材がしばしば入った。乳腺外科医への取材が終わった後、手術を受けたばかりであることを伝え、一番の悩みであるホルモン療法について聞いてみた。

 「多くの患者さんが、『抗がん剤よりもホルモン療法の方がつらかった』と言いますよ。抗がん剤が短期で終わるのに対してホルモン療法は長いですから。でも、治療が終わると、とても体が楽になったという人が多いです」

 もっと大変な思いをしている人がたくさんいるのに、副作用が少ないと言われているホルモン療法で苦しんでいる自分は、根性が足りないと自分を責めていた。しかし、つらいのは私だけではないと分かっただけでも救われた。7年は長いと思ったけれど、すでに1年は終わった。6年後に元気になる自分を想像するのも悪くない。(了)


中山あゆみ

 【中山あゆみ】

 ジャーナリスト。明治大学卒業後、医療関係の新聞社で、医療行政、地域医療等の取材に携わったのち、フリーに。新聞、雑誌、Webに医学、医療、健康問題に関する解説記事やルポルタージュ、人物インタビューなど幅広い内容の記事を執筆している。

 時事メディカルに連載した「一流に学ぶ」シリーズのうち、『難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏(第4回・5回)』が、平成30年度獨協大学医学部入学試験の小論文試験問題に採用される。著書に『病院で死なないという選択』(集英社新書)などがある。医学ジャーナリスト協会会員。

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