「医」の最前線 高知大医学部「家庭医道場」

〔第1回〕まずは地域、人々の生活を知る
高知大医学部「家庭医道場」

 医師の地域偏在はどうすれば解消されるのか。医師・看護師不足に悩む地方の大学医学部は、地域への人材確保策に試行錯誤を重ねている。そんな中、高知大学医学部家庭医療学講座(阿波谷敏英教授)は、学問や知識ではなく、肌で感じながら地域医療を学ぶのを狙いとした「家庭医道場」を2007年から年2回を主催。毎回、参加希望者が定員を上回っており、道場参加を目的に入学を希望する学生もいるほどの人気を集めている。
 阿波谷教授は「まず人々の暮らしがあり、その次に医療がある。これはへき地医療に限ったことではない。地域を愛することが医療人としての第一歩になる」と話す。5月下旬、高知県東部の馬路村で開かれた1泊2日の道場に密着。40人の医師・看護師を目指す学生が、村人と触れ合いながら真剣に学び、将来について語り合った。

高知大学医学部のある岡豊キャンパスからバスで馬路村へ

 ◇学生たちが自主的に

 5月下旬の早朝、高知大学医学部のキャンパスに、続々と学生が集まってきた。参加者は医学科と看護学科の学生計40人。「毎年人気で抽選にあぶれ、今回やっと参加できてうれしい」「毎回参加して今年が最後。たくさんの人と交流したい」「都会で育ち、村がどんなところか知らないので学んできたい」など、合宿にかける思いはそれぞれだ。

 現地で使う備品や食料、大量の荷物をバスに積み込み、一路、合宿地の馬路村へ。片道2時間弱の道中、途中で休憩した後は信号機もない、対向車とすれ違うのも一苦労の細い山道を延々と進む。

 現地で何をどのように行うのか。学生が実行委員会を立ち上げ、5人のメンバーが3カ月前からプログラムを練り上げてきたという。「『楽しかった。また参加したい』と言われるのは違う。学生たちを楽しませるためにやっているわけではない。自分たちが何をしに来たのか考え、自ら行動して地域医療を学んでほしい」と阿波谷教授。

 ◇まずは地域を知ることから

 現地に到着すると休む間もなく、プログラムが始まった。初日は医療の話は一切なく、村の人たちと交流し、地域の人がどんな生活をしているのかを知ることに徹する。「ここでは、大学の教室では学べない人々の生活を理解し、地域コミュニティーの中で医療者がどうかかわっていくのかを学んでほしい」と阿波谷教授は説明する。

 グループに分かれ、馬路村のイメージについて話し合う。ひと通り話し終わると、1枚の紙がミシン目で三つに切れる「文殊カード」に1人一つずつイメージを書いていく。

 この方法は「医療とは人間を対象とするべきであって病気を対象とするべきではない」という医療の原点を説いた『医の倫理』の著者・中川米造氏が考案したもの。他の人の意見を踏まえて、自分の意見を考える訓練になる。全部のカードが集まったら切り離し、似た意見が書かれた紙を分類し、最終的に浮かびあがったイメージから疑問点を三つ出した。

 グループ発表では、「学校はどうなっているのか」「買い物は大変ではないのか」「どんな仕事があるのか」など素朴な疑問が次々とあがった。その疑問をもって、午後のフィールドワークで答えを探しに出かける。

意見交換会で学生たちと交流する馬路村の山﨑出村長

 ◇馬路村ってどんなところ?

 今回の道場には、馬路村の健康福祉課の職員や保健師、診療所の医師、看護師らが合流。馬路村の山﨑出村長が、村の概要を紹介した。馬路村はポン酢しょうゆなどユズの加工品で全国的に有名になったが、森林率が96%、道は県道1本、信号もコンビニエンスストアもない全周8キロの小さな村だ。

 少子高齢化が進み、現在人口823人で年々減少の一途をたどっている。村にある二つの診療所を1人の医師がかけもちしている。村を応援する特別村民が全国に1万1313人いて、村の運動会に参加できるほか、来訪の際、村長室に行くと、馬路村名産のユズ飲料「ごっくん馬路村」がふるまわれる。

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