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大切な意思決定能力
~がん教育が一助に~ 第7回

 ◇授業の進め方も変化

 中には、学校での授業の進め方自体の変化を感じさせる感想もありました。

 「授業の中で、意思決定に注目していたのが印象に残った。最近は、教育現場でも意思決定能力の向上に向けてさまざまな取り組みをしている。大人や教師が指示をするのではなく、考える材料を与えて自らの力で物事の方向性を決め、意思決定を行うサポートをする。意思決定能力の養成が、将来的に自分の病気や治療法決定にもつながってくれるとうれしい」

がん教育による生徒の意識変化

がん教育による生徒の意識変化

 以前、日本人のヘルスリテラシーが低い点についても触れました。しかし、後悔しないがん治療法の選択には、ヘルスリテラシーの向上とともに十分な意思決定能力が欠かせません。実際には、治療法決定に難渋する場面も多く出てきます。図のように、がん教育の授業前はがんの治療法決定について、パターナリズムが行われると思っていた生徒が約6割でしたが、授業後にはその割合は1割にまで減少しています。現在の意思決定能力を育む教育現場での取り組みが、将来、患者の意思決定能力の向上につながることを期待します。がん教育も、それに一役買うかもしれません。

 ◇自分で決めたい

 最後に子どもにいただいた感想を一つ紹介します。
 「きょうの話を聞いてがんについての知識が付きました。これからの生活などに気を付けたり、周りにも意識を向けたりしながら生きていきたいと思いました。人生の大切な選択をするときは、人に頼らずに自分でしっかりと決めて悔いのないように生きていこうと思いました」(了)

 南谷優成(みなみたに・まさなり)
 東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任助教
 2015年、東京大学医学部医学科卒業。放射線治療医としてがん患者の診療に当たるとともに、健康教育やがんと就労との関係を研究。がん教育などに積極的に取り組み、各地の学校でがん教育の授業を実施している。

 中川恵一(なかがわ・けいいち)
 東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任教授
 1960年、東京大学医学部放射線科医学教室入局。准教授、緩和ケア診療部長(兼任)などを経て2021年より現職。 著書は「自分を生ききる-日本のがん治療と死生観-」(養老孟司氏との共著)、「ビジュアル版がんの教科書」、「コロナとがん」(近著)など多数。 がんの啓蒙(けいもう)活動にも取り組んでいる。



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