こちら診察室 がんを知ろう
がん教育を受けてどう感じる?
~子どもの疑問、感想を紹介~ 第9回
◇がん情報サービスで確認
このように、さまざまな質問をいただきます。ここで質問に答えることは避けます。ただ、多くの答えは国立がん研究センターがん情報サービスのホームページ(https://ganjoho.jp/public/index.html)で確認できます。「がんの治療法は誰が決めるか?」「がんになった人が自殺を選ぶ権利はあるか?」など鋭い質問も並んでいます。ぜひ家族で考えてもらえるとよいと思います。
その他に印象に残った感想を抜粋して紹介します。例えば、得た情報をどう使うかについて、「今回インプットした情報をアウトプットしなければ意味がないので、家族や周りの人に情報を与えていきたい。これからは、がんに関して受動的ではなく、主体的に考えたり、情報を知ったりしていこうと思う。」というものがありました。一方、検診について「がん検診に行くことの大切さも分かり、大人になったら『自分はまだ大丈夫』だとは思わず、しっかり検診に行くようにしたいと思いました」という感想もありました。
授業前と後のアンケート結果
がん教育で教えられる知識はごくわずかです。ヘルスリテラシーのくだりでも紹介した通り、自分で主体的に情報を得たり、考えたりすることは重要です。また、「自分はまだ大丈夫」と思わないことはとても大事です。この生徒の感想は、初めに紹介した大人のがん検診を受けない理由にあった「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」とは対照的な意見です。
◇「自分はがんにならない」1割以上
考えさせられる点もありました。図は授業前後の二つの設問に対する回答です。がんは誰もがかかる可能性のある病気であると分かっているのに、「自分はがんにならない」と考えている生徒が授業前では2割、授業後でも1割以上いました。がん検診を受けないのは「がんであると分かるのが怖いから」という考えもそうですが、行動心理学で教える「現状維持バイアス」とでも言うのでしょうか(違っていたらどなたか教えてください!)。がんは誰もがかかり得る病気であり、正しい知識と態度で立ち向かっていきたいものです。(了)
南谷優成(みなみたに・まさなり)
東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任助教
2015年、東京大学医学部医学科卒業。放射線治療医としてがん患者の診療に当たるとともに、健康教育やがんと就労との関係を研究。がん教育などに積極的に取り組み、各地の学校でがん教育の授業を実施している。
中川恵一(なかがわ・けいいち)
東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任教授
1960年、東京大学医学部放射線科医学教室入局。准教授、緩和ケア診療部長(兼任)などを経て2021年より現職。 著書は「自分を生ききる-日本のがん治療と死生観-」(養老孟司氏との共著)、「ビジュアル版がんの教科書」、「コロナとがん」(近著)など多数。 がんの啓蒙(けいもう)活動にも取り組んでいる。
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(2023/07/28 05:00)
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