こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
入院中の子どもたちに穏やかな日常を 【第1回】
国立成育医療研究センターのファシリティドッグ・ハンドラーの権守礼美(ごんのかみ・あやみ)です。ファシリティドッグのマサと、2021年より同センターで活動しています。ファシリティドッグは、医療施設や教育機関、裁判所など特定の施設内で常勤する専門的なトレーニングを受けた犬のことです。
私が所属するNPO法人「シャイン・オン・キッズ」は「小児がんと重い病気を抱える子どもたちと家族の笑顔のために」を理念とし、06年から活動を開始しました。入院中の子どもたちの心理・社会的ケアの一つとして、10年にファシリティドッグ・プログラムを日本で初めて導入しました。
◇ファシリティドッグの寄り添う力
私がハンドラーを目指したきっかけは、看護師として勤務していた小児専門病院で、初代ファシリティドッグのベイリーが活躍していたことでした。
当時、入退院を繰り返していた思春期の患者さんが、学校の弁論大会でベイリーのことをスピーチしたと話してくれました。ベイリーに会えただけで、検査で疲れていた気持ちが少し楽になったこと。友達に「頑張れ!」と励ます言葉をかける医師や看護師とは違い、ベイリーはそっと寄り添い、気持ちを受け止めていたこと。ベイリーがいてくれたことで薬が飲めたと思うこと。悩みや悲しみが深い時ほど、言葉は人の心に届きにくく、ただ、側にいることで大きな力となることをベイリーから教わった、というのです。
自分の気持ちを言葉にしてくれたことで、私はもっと知りたくなり、尋ねました。
「看護師さんたちは話し過ぎじゃないかな。そっと、側にいてほしいだけの時もあるんだよ。ベイリーを見習ったらいいよ」
その言葉から、私は看護での大事なスキルの一つを改めて教わることになったのです。検査や手術に付き添うベイリーが、医療チームの一員として大きな役割を果たしていることにも気付かされ、ファシリティドッグの役割やハンドラーの仕事にとても興味を持ちました。
体調が優れない時にもマサが寄り添うと笑みがこぼれる(権守氏提供)
◇入院生活にプラスをもたらす犬の役割
子どもたちにとって入院環境は非日常です。家族や親しい人たちと離れ、知らない人たちに囲まれながら、つらい検査や治療に向き合い、痛みや副作用のほか、さまざまな制約がある生活を送ります。この生活が医療を受ける場だけでなく、成長・発達する場であることも忘れずに、より良い環境にしていく必要があります。
ハンドラーの私とファシリティドッグのマサが、導入4病院目となった国立成育医療研究センターで活動を開始した21年7月。静岡県立こども病院で日本初のファシリティドッグ、ベイリーの活動開始から11年が経っていました。
私がマサと初めて病棟を訪れた際、長期にわたる療養生活を送っていた、ゆきとくん(仮名、3歳)がマサを見るなり、「わんわん!」と立ち上がり、笑顔を見せました。その瞬間、ナースステーションにいた医師と看護師が一斉に、「立ったー!!」と歓喜の声を上げたのです。
治療による影響で、看護師や保育士が積極的に関わっても、なかなか立てずにいましたが、その日をきっかけに歩くように。ちょうど体調が回復する時期だったことも背景にありますが、マサとの出会いがタイミングを逃さず発達を促すことに寄与できたのではないかと思います。病院の中に犬がいることで、普通の入院生活では得ることが難しい外部刺激や経験を提供し、発達を促せることを実感し、このプログラムに関われることの喜びをかみしめたのでした。
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(2024/11/08 05:00)