こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
入院中の子どもたちに穏やかな日常を 【第1回】
◇ファシリティドッグとハンドラーの一日
出勤前、30分以上の朝の散歩から始まります。私たちと同じく、犬たちにとっても運動はとても大事です。散歩中は歩き方や活気などを細かく観察して心身の体調を把握します。さらにグルーミング(身繕い)で身だしなみを整え、出勤します。
当団体のファシリティドッグ・チームは平日5日間、常勤します。また、看護師がハンドラーを務めるため、介入中の患者さんの状況を的確に把握できるのも特徴です。カルテの確認や他職種との連携がスムーズに行えます。患者さんの要望に応じて、検査や治療、処置前後の不安や緊張を和らげるための適した方法を考え、継続的な介入を行います。週当たりの訪問回数や介入時間についても、子どもたちの様子や治療状況から調整します。
その他にも、ファシリティドッグとの関わりを通して子どもたちへ遊びや学習の場を提供します。医師や看護師だけでなく、理学療法士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト*、保育士ら専門職と連携します。
人と関わることが好きなファシリティドッグですが、自身の役割を楽しんで果たせるよう、活動に関しては国際基準のガイドラインに則り、ルール化しています。1時間の活動後は1時間以上の休憩をとること、1日の活動は3時間程度が目安です。退勤後の散歩も欠かしません。
◇ファシリティドッグがもたらす日常
病院には何年も入院生活を送っていたり、最新の医療を提供しても治癒を目指せなかったりする場合など、さまざまな状況にある子どもがいます。マサはどんな時も、子ども目線で寄り添います。
・はなちゃん(仮名、2歳)
体の大きなマサが怖くないよう、近くにピクニックシートを敷いて横になり、側にいることに慣れてもらうことから始めました。はなちゃんはあまり体調が良くなかったこともあり、当初は興味を示しませんでしたが、次第にマサを見つめるように。そのうち横にゴロンとし始め、それからはマサと何気ない日常を過ごすことが多くなりました。母親は、家にいるような空気をマサが運んで来てくれると感じていたそうです。
・みこちゃん(仮名、10歳)
マサが訪問するといつも「他で頑張っているから、ここでは寝ていいんだよー」と、マサが寝られるようベッドを空けてくれ、「マサはいてくれるだけでいいの」と話します。その後、体調が悪化して体が起こせなくなった時でも、マサが行けばすくっと体を起こし、生き生きとした笑顔になっていました。そんなマサとの関わり合いは、病状が厳しいという現実をふと忘れ、ホッとできる時間だった、と母親が話してくれました。
・まみちゃん(仮名、11歳)
病状の悪化に伴って目標を見失いかけ、医療者へいら立ちを見せることがありました。マサは検査や治療に計画的な介入をし、点滴などの痛みのある処置やリハビリに付き添いますが、このような状況になると大好きなマサですら遠ざけるようになり、サポートできなくなることもありました。そんな時、自宅で飼っていた犬とどのように過ごしていたかを聞き、同じように枕元で、ただそばにいる形でサポートを続けたことがあります。後に、その時に離れずにいてくれたことがありがたかったと話してくれました。
マサがいれば、自ら座って点滴の処置に臨むことができる(権守氏提供)
◇子どもたちの力を引き出す
私がマサと活動していて印象に残ることの一つは、動けなかった子どもたちがマサを見ると動くことができ、活動する意欲が出るという点です。好きなゲームもできずにいた男の子がマサと会うと気分が軽くなり、ゲームもできた。食事も取れた。「マサがいると宿題がはかどるんだよね」といった場面も。
もともと動物がいるだけで、子どもたちに情緒的な成長や心を安定させることは研究で報告されています。特に入院時は、マサがいることでストレスを緩和させ日常を感じたり、リラックスしたりするなど、とても意義があると思います。
また、マサと関わることで子どもたちが能動的に行動し始めます。これは子どもたちの成長においてはとても重要なことです。病院では、検査や治療など自分でコントロールできることが少なくなりますが、マサとの時間は、遊びや学習という場を確保するだけでなく、子どもたちが自己コントロール感を保てることにもなるのだと学びました。
こうした関わりは、病院に専属で働くファシリティドッグと臨床経験があるハンドラーであるからこそできることと思っています。そして、このファシリティドッグとの日常や寄り添いが、入院中のどんな場面でも子どもたちを支え、力を引き出していくのです。(了)
*チャイルド・ライフ・スペシャリスト=医療環境にある子どもや家族が抱えうる精神的負担を軽減して、主体的に治療に臨めるように支援する専門職。
権守礼美さん
権守礼美(ごんのかみ・あやみ) ファシリティドッグ・ハンドラー、小児看護専門看護師。認定NPO法人シャイン・オン・キッズに所属。国立成育医療研究センターに勤務。95年東京医科歯科大学(現東京科学大学)医学部保健衛生学科看護学専攻卒。神奈川県立こども医療センターで病棟やICU、手術室、外来で勤務。12年聖路加看護大学(現聖路加国際大学)大学院卒。同年、日本看護協会認定小児看護専門看護師取得。18年榊原記念病院入職。小児看護専門看護師として胎児期から成人期の先天性心疾患の患者家族を支援。21年認定NPO法人シャイン・オン・キッズ入職。国立成育医療研究センターにて、ファシリティドッグのマサと活動を開始、現在に至る。
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(2024/11/08 05:00)
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