こちら診察室 依存症と向き合う

第2回 患者100万人、大半は自覚せず 
誰でもかかる「アルコール依存症」 久里浜医療センターの「今」

 ◇適正飲酒の定義が変わる?

 なお女性や高齢者、お酒を飲むと赤くなる人は体質的に酒に弱くできているため、20グラムの2分の1~3分の1程度(10~13グラム)もしくはもっと少なめにした方が安全と言われています。ほかにも「週に2日は休肝日」「飲む時は食事と一緒にゆっくりと」「薬と一緒に飲まない」「妊娠・授乳中は禁酒」など、病気になるリスクを下げるためのいろいろなルールがあります。

 ちなみに、これまでお酒には「全く飲まないより少量飲んだほうが健康に良い」と信じられてきました。しかし、最近は、飲まなければ飲まないほど健康に良い、という研究結果も聞かれます。筆者自身、お酒が好きなので耳の痛い話ですが、今後は適正飲酒の定義が変わる可能性があるかもしれません。

東京断酒新生会について説明する会員(左2人)=本文とは関係ありません

 ◇努力や根性だけでは?

 いったんアルコール依存症になってしまうと、普通の酒飲みに戻るのは難しいと言われます。このため、治療はお酒を一切飲まない「断酒」が基本です。

 私たちは診察室にいらした患者さんに「これ以上飲んだら命に関わるのでお酒はやめましょう」とか「もう一生分飲んだのですからそろそろお酒を卒業しましょう」などとお話ししますが、断酒するのはなかなか難しいようです。

 そこで患者さんにお勧めするのが、通院(病院)、自助会、抗酒剤という「断酒の三本柱」です。初めて治療を受ける患者さんの中には通院ではなかなかお酒を切れない方も多いので、そのような場合には入院をお勧めします。

 自助会というのは患者さんの集まりで、同じ病気を抱える仲間たちと励ましあいながら回復を目指します。抗酒剤はお酒を受け付けなくする薬で病院から処方されます。近年は種類も増えたため患者さんの体調と相談しながら使います。

〔Aさんの場合〕

 実際、病院に行くとどのような治療を受けるのでしょうか。アルコール依存症からの回復に取り組んだAさんのケースを紹介したいと思います。どこにでもある依存症の実情、回復に向けた家族の協力、断酒の難しさなど、アルコール依存症を知る助けになると思います。

 ◇大量の空き缶

 Aさんは60代の女性。お子さんが3人いましたが、今はご主人と二人暮らしです。若いころは仕事に育児にとエネルギッシュに動いていましたが、近年は近所に住む親御さんの介護に専念していました。その親御さんも2017年に亡くなりました。お酒はたしなむ程度でしたが、結婚を機に酒好きのご主人に付き合って飲むようになり、近年は一人でも飲んでいたようです。

 Aさんの異変に最初に気付いたのは長女でした。久しぶりに実家に戻った時、ごみ置き場に大量の空き缶が捨ててあったのです。父親が飲んだのだと思い注意したところ、「俺じゃないよ。母さんが最近すごく飲むんだ」との返事に驚きました。長女から見ると、いつもと変わらぬ明るいAさんです。


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