こちら診察室 依存症と向き合う

第2回 患者100万人、大半は自覚せず 
誰でもかかる「アルコール依存症」 久里浜医療センターの「今」

 ◇転倒して入院

 近年は夫よりも多く飲むようになり、たまに昼間から飲んで寝ていたことも。お酒のことで夫と口論もあったそうです。長女がお酒を控えるよう諭すと「心配かけてごめんね。もう飲みすぎたりしないから大丈夫よ」と言われ、安心して帰りました。

患者を搬送する救急車=本文とは関係ありません

 数日後、Aさんは自宅で転び、救急車で運ばれました。酔っぱらって受け身が取れず、顔から突っ込んで血まみれになったそうです。幸い命に別条はありませんでしたが、血液検査で肝臓の数値がとても高いことが分かりました。

 Aさんは「これくらいのことで救急車を呼ぶなんて、父さんは大げさなんだから」と笑っていましたが、心配になった長女は専門病院に連れて行きました。そこで告げられた病名は「アルコール依存症」でした。

 ◇家族の協力

 Aさんは当初、「お酒は自力でやめます。入院はできません。主人は自分でご飯も炊けない人なので」と言っていました。しかし、長女の強い希望、家のことは長女や長男が助け、ご主人にも少しは家事を覚えてもらうことになり、ようやく入院を承諾しました。

 入院してからは、3カ月の依存症の教育プログラム「アルコールリハビリプログラム」に出席しました。月曜日から金曜日まで午前・午後・夜間とプログラムが組まれ、講義を聴いたり、作業療法や認知行動療法を受けたりしながら、断酒の基礎を固めていきました。

 入院後半になると外出・外泊訓練で実家に帰ったりもしましたが、たまった家事を一気に片付け、クタクタになって病院に戻ってきました。また夕食時に夫が目の前で晩酌するので、それが苦痛でもありました。このためご主人と長女、主治医、Aさんで合同面接を行い、(1)ご主人はAさんの目の前で飲酒しない(2)Aさんは家事などで頑張りすぎない―ことを皆で確認しました。

 ◇「きょう1日は飲まずに」

 Aさんはプログラムを修了し、退院しました。退院後も専門病院に通院しつつ、地元の自助会のミーティングに通っています。お酒を最後に口にしてから半年になりますが、正直に言えばお酒を飲みたい気持ちはゼロではありません。一生一滴も飲めないのかと思うと、寂しくもなります。

岩原千絵氏

 しかし協力してくれている家族のため、一緒に回復を目指している自助会の仲間のため、何より自分自身をお酒で痛めつけないため、「きょう1日は飲まずにいよう」と断酒に励んでいます。(久里浜医療センター女性アルコール依存担当・精神科医 岩原千絵)

岩原千絵氏(いわはら・ちえ)
 信州大学医学部卒。東京女子医科大学精神神経科、成増厚生病院アルコール病棟等を経て、久里浜医療センター勤務。日本精神神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。日本精神神経学会、日本認知症学会、日本アルコール関連問題学会、日本アルコール・アディクション医学会所属


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