こちら診察室 依存症と向き合う

第2回 患者100万人、大半は自覚せず 
誰でもかかる「アルコール依存症」 久里浜医療センターの「今」

 「酒(アルコール)は百薬の長」と言われますが、その一方でさまざまな健康問題との関連が指摘されています。よく知られているのは肝臓病ですが、他にもがんや自殺などのリスクを高めます。アルコール依存症はその中で代表的な病気の一つです。

写真はイメージです【AFP時事】

写真はイメージです【AFP時事】

 ◇離脱症状で寝汗も

 アルコール依存症は大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで起こるメンタルの病気です。日本の患者数は100万人を超えると言われますが、実際に病院に行っているのは2014年の調査で4.9万人と一割にも届きません。

 多くの患者さんが自覚せず、もしくは「わかっちゃいるけどやめられない」状態で飲み続けているのです。

 アルコール依存症になるとさまざまな症状が表れます。よく知られているのが手の震えですが、これはお酒が切れてくる(抜けてくる)と起こる離脱症状(いわゆる禁断症状)の一つです。離脱症状にはほかにもイライラや不眠、頭痛吐き気下痢、発汗、動悸(どうき)などがあります。

 前の晩にお酒を飲んで、翌朝起きてみたらシーツが汗でぐっしょり、などという時には、寝ている間にお酒が切れて離脱症状(この場合は寝汗)が起こっていた可能性があります。

 ◇誰でもかかる病気

 離脱症状の他にも、(1)渇望=お酒を飲みたいと言う強い欲求(2)耐性=少しのお酒では物足りなくなりどんどん量が増えていく(3)コントロール障害=適度なところでやめることができなくなったり飲んではいけない状況で飲んでしまったりする―などの症状が表れます。

飲酒運転の福岡市職員に追突され海中に転落、海中から引き揚げられた一家5人が乗ったRV車。幼児3人がなくなった(福岡市東区)2006年08月26日 【時事】=本文とは関係ありません

飲酒運転の福岡市職員に追突され海中に転落、海中から引き揚げられた一家5人が乗ったRV車。幼児3人がなくなった(福岡市東区)2006年08月26日 【時事】=本文とは関係ありません

 アルコール依存症は、暴言や暴力、飲酒運転など、患者さんだけでなく家族や社会にまで影響が及ぶようになります。例えば、飲酒運転で検挙された人のうち3割程度にアルコール依存症の疑いがあったという報告、DV加害者の約4割にお酒に関する問題があったという報告もされています。

 このようなお話をすると、「アルコール依存症は特殊な人がかかる病気、自分には関係ない」と考える人がいます。しかし、残念ながらお酒を飲む人なら誰でもかかり得る病気です。

 ◇節度ある飲酒量

 ではどれくらいお酒をセーブすれば病気になるリスクを下げられるのでしょうか。厚生労働省は「健康日本21」の中で成人男性の節度ある適度な飲酒(いわゆる適正飲酒)について、1日平均で純アルコール20グラム程度と提言しています。

 純アルコールで20グラムと言うと実際にはどれくらでしょうか。お酒の度数によって違いますので、それぞれ計算しなければなりません。計算式は「お酒の量(ml)×0.8×度数/100」です(お酒は水より軽いので比重である0.8を掛けます)。

 例えば、度数5%のビールをロング缶1本(500ml)飲むとぴったり20グラムになります。最近問題になっている9%のストロングチューハイですと350ml缶1本で25.2グラム。これだけで20グラムを超えてしまいます。


こちら診察室 依存症と向き合う