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不安障害の分類~不登校との関連性~
パニック障害、恐怖症 【第7回】

 5. 特定の恐怖症

 特定の恐怖症は、特定の対象や状況に対して、その危険性や脅威の程度に不釣り合いな強い恐怖や不安を感じ、その対象や状況を持続的に回避する状態を指します。最新の研究では、青年期における有病率が1カ月で9.5%、12カ月で15.8%と報告されています[1]。

 学校に関連した特定の恐怖としては、幾つかの典型的なパターンが観察されています。例えば、学校のトイレに対する恐怖(トイレ恐怖)では、不潔さへの過度な懸念や、他者に排泄音を聞かれることへの強い不安が特徴です。また、給食時の嘔吐への恐怖(嘔吐恐怖)では、「食事中に吐いてしまうのではないか」という強い不安から、給食の時間を極度に恐れるようになります。体育での特定の運動(例:マット運動や跳び箱)に対する恐怖も、しばしば見られる形態です。

 これらの恐怖症では、最初は特定の状況の回避から始まります。例えば、トイレ恐怖の場合、「学校ではトイレに行かないように水分を控えよう」という対処から始まり、次第に「学校に行くこと自体を避けよう」という思考に発展していきます。このように、当初は限局的な回避行動が、徐々に学校生活全般への回避へと変化し、不登校に至るケースが見られます。特に重要な点として、恐怖の対象が学校生活に密接に関連している場合、その回避が教育機会の著しい制限につながる可能性があります。

 6. 選択性緘黙

 選択性緘黙(かんもく)は、特定の社会的状況(多くの場合は学校)において、話す能力があるにもかかわらず、一貫して話すことができなくなる状態を指します。重要な特徴として、家庭などくつろげる場面では普通に会話ができるという点があります。これは単なる「話したくない」という意思や反抗的な態度とは異なり、「話したい」という意思があっても強い不安のために話せなくなる状態です。

 一般的な有病率は0.7%程度と報告されており、その多くが2~4歳という早期に発症することが特徴です[1]。発症の経過としては、多くの場合、幼稚園や保育所への入園を機に症状が顕在化します。学校の場面では、教師の質問に答えられない、クラスメートと会話ができない、給食の献立を読み上げられないなどの形で表れます。また、話せないことへの不安や緊張から、表情が硬くなる、視線が合わせられない、体が固まるといった身体的な反応を伴うことも特徴的です。

 特に注目すべき点として、選択性緘黙の子どもたちの多くは社交不安障害の症状も併せ持っています。そのため、選択性緘黙は社交不安障害の早期発達段階における表現型である可能性が指摘されています[3]。また、言語能力に問題がないにもかかわらず、長期間にわたって話せない状態が続くことで、学習面での遅れや社会的スキルの発達に影響を及ぼす可能性があります。そのため、早期発見と適切な介入が極めて重要とされています。

 今回は、不安障害の下位分類と、それらが学校の場面でどう表れるかについてお話ししました。次回は不安障害の早期発見のポイントや経過について解説します。(了)

飯島慶郎医師

飯島慶郎医師

 飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。

 参考文献:

[1] Anxiety disorders in children and adolescents: Epidemiology, pathogenesis, clinical manifestations, and course (UpToDate)

[2] 渡部京太:不安障害 不登校ひきこもりとの関連を中心に.小児科臨床,64(5): 871-879, 2011.

[3] Practice Parameter for the Assessment and Treatment of Children and Adolescents With Anxiety Disorders (JAACAP 2007)


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