こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線
うつ病を見逃さないための注意点 【第5回】
不登校児童生徒の中に潜むうつ病を見逃さないことは、適切な支援と治療を行う上で極めて重要です。しかし、子どものうつ病は大人とは異なる症状を示すことがあり、見逃されやすいという問題があります。ここでは、うつ病を見逃さないための注意点を幾つか挙げ、詳しく解説していきます。
子どものうつ病は大人とは異なる症状を示すことがあり、見逃されやすいという問題がある(イメージ)
◇子ども特有の症状に注目する
田中恒彦氏の研究によれば、児童期のうつ病は大人とは異なる症状を示すことがあります[4]。具体的には、以下のような特徴に注意が必要です。
・易怒性:かんしゃく発作や言うことを聞かないなどの行動
・気分の反応性:楽しい出来事があると一時的に元気になる
・不安や行動の問題:落ち着きがない、衝動的な行動
・身体症状:頭痛、腹痛などの訴え
これらの症状は、単なる「わがまま」や「甘え」と誤解されやすいため、注意深い観察が必要です。特に、気分の反応性は子どものうつ病の特徴的な症状の一つです。大人のうつ病では抑うつ気分が持続するのが特徴ですが、子どもの場合は楽しいことがあれば一時的に気分が大きく改善することもあり、これが子どものうつ病の発見を難しくしています。そのため、一般の大人から見て「うつ」にはとても見えないケースがたくさん存在しています。
子どものうつ病が身体症状として表れることがあると指摘されている
◇年齢による症状の違いを理解する
Kearneyらの研究では、うつ病の症状が年齢によって異なることが指摘されています[3]。思春期・青年期になると、さらに以下のような症状が表れやすくなります。
・易怒性:不機嫌、敵意、イライラしやすい、怒りの爆発
・過眠傾向
・食欲増加と体重増加
・社会的引きこもり
これらの症状は見るからに「反抗期」や「思春期特有の問題」と似ており、混同されやすいため、慎重な評価が必要だと筆者は思います。
◇行動の変化に注目する
Finningらの研究によれば、うつ病はさまざまな行動の変化として表れることがあります[1]。以下のような変化には注意が必要です。
・学業成績の急激な低下
・課外活動への参加減少
・友人関係の悪化や社会的引きこもり
・睡眠パターンの変化(不眠または過眠)
・食欲の変化(食欲不振または過食)
これらの行動上の変化が持続的に見られる場合、うつ病の可能性を考慮する必要があります。
◇身体症状に注意を払う
Karthikaらの研究では、子どものうつ病が身体症状として表れることがあると指摘されています[2]。これらは、まさに不登校児童の多くによく見られる初期の兆候として一般にも知られているものかもしれません。
・慢性的な頭痛
・原因不明の腹痛
・全身の倦怠感
これらの症状が継続的に見られ、身体医学的な評価で原因が特定できない場合、うつ病の可能性を考慮する必要があります。
◇多角的な評価を行う
渡部京太氏の研究では、うつ病の診断には多角的な評価が重要であると指摘されています[3]。以下のような評価が推奨されています。
・詳細な問診(本人、家族、教師からの情報収集)
・心理検査(うつ病スクリーニング尺度の使用など)
・必要に応じて身体的検査
子どもからだけ、もしくは親からだけの聞き取りでは情報量が足りないことが多く、いろいろな情報を総合してうつ病の見逃しを防ぐ必要があります。また、医師の経験値も非常に重要な要素と言えるでしょう。
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(2024/12/02 05:00)