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発達障害と不登校の関係
~実態と課題~ 【第9回】

 近年、教育現場における重要な課題として、発達障害のある子どもたちの不登校問題が注目を集めています。発達障害は、自閉スペクトラム障害(ASD)注意欠陥多動性障害(ADHD)学習障害(LD)など、多様な特性を包含する概念です。これらの障害は、認知、学習、社会性、コミュニケーションなど、学校生活の根幹に関わるさまざまな側面に影響を及ぼします。

 学校という環境は、集団での学習や社会的相互作用を基本とする場であり、発達障害のある子どもたちにとって、特有の困難をもたらす可能性があります。例えば、授業内容の理解や課題の遂行における困難、対人関係の構築や維持の難しさ、感覚過敏による物理的環境への不適応など、多岐にわたる課題に直面することがあります。

発達障害のある子どもたちの不登校リスクが顕著に高いことが最新の研究で報告されている

発達障害のある子どもたちの不登校リスクが顕著に高いことが最新の研究で報告されている

 ◇発達障害全般と不登校の関係

 発達障害と不登校の関連性については、近年の研究により、その実態が徐々に明らかになってきています。この関係性は単なる相関関係を超えて、発達障害特有の認知・行動特性が学校環境におけるさまざまな困難を生み出し、それが不登校のリスクを高めるという因果的なメカニズムの存在を示唆しています。

 最新の研究データからは、発達障害のある子どもたちの不登校リスクが顕著に高いことが報告されています。例えば、英国での大規模調査では、発達障害のある子どもの32%が継続的な学校欠席を示していることが明らかになりました[1]。これは一般的な欠席率と比較して著しく高い数値です。

 さらに、Lereyaらによるイングランドの中等学校生徒を対象とした包括的な調査研究では、特別支援教育を必要とする生徒の欠席率が統計的に有意に高いことが示されています[2]。

 Strombergらの研究でも、ASDやADHDなどの発達障害のある子どもたちの不登校率の高さが確認されており、この傾向は国際的に一貫して観察されています[3]。

 特に注目すべきは、Black & Zablotskyによる大規模調査の結果です[4]。この研究では、発達障害の種類別の不登校リスクを示しています:

 ・ADHDのある子ども:約1.8倍

 ・ASDのある子ども:約2.9倍

 ・知的障害のある子ども:約1.6倍

 重要な知見として、複数の発達障害が併存する場合、不登校のリスクが相乗的に高まることも報告されています。この結果は、発達障害の特性が重なり合うことで、学校環境への適応がより困難になることを示唆しています。

 【個別の発達障害と不登校の関連性】

 ◇ASDと不登校

発達障害のある子どもの不登校への対応は、その子どもの教育全体を見据えた長期的な視点が必要

発達障害のある子どもの不登校への対応は、その子どもの教育全体を見据えた長期的な視点が必要

 ASDは、社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ、限定された興味や反復的な行動パターン、感覚過敏などを特徴とする発達障害です。これらの特性は、日常生活や学校生活におけるさまざまな場面で困難を生じさせる可能性があります。

 Kuritaの先駆的研究では、広汎性発達障害(PDD)(現在のASDに相当)のある子どもは、PDDのない知的障害の子どもと比較して、有意に高い欠席率を示すことが明らかにされました[5]。この研究は、PDD≒ASD特性そのものが不登校リスクを高める要因となることを示唆する重要な知見となっています。

 Hattonらの研究においても、ASD児の欠席率は、特別な教育的支援を必要としない子どもと比較して顕著に高く、不登校の持続性も強いことが報告されています[6]。さらに、杉山登志郎らの報告では、アスペルガー症候群(現在のASDに含まれる)の症例の約9.3%に不登校が認められ、この問題の臨床的重要性を裏付けています[7]。


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