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不安障害の分類~不登校との関連性~
パニック障害、恐怖症 【第7回】

 前回の連載では、不登校の現状とその要因の中でも特に不安障害にフォーカスしてお話ししました。

 今回は、不安障害の症状を分類別に見ていきましょう。

 1. 分離不安障害

 分離不安障害は、発達段階に不適切な形で愛着対象(多くの場合は親)との分離に対する過剰な不安や恐怖を示す状態を指します。特に小学校低学年の不登校との関連が強く見られ、主に入学まもない時期に顕在化します。

 症状の中核は、愛着対象(通常は母親)から離れることへの強い不安と恐怖です。具体的には、登校時に親と別れる場面で激しい泣き叫びや強い抵抗を示し、教室に入ることができません。また、親と離れている間、「親に何か悪いことが起きるのではないか」という強い不安や心配を繰り返し訴えます。さらに、親との分離を予期した際の不安から、前日からの不眠や分離の場面を回避するためのさまざまな訴えが表れます。

 実際の臨床現場では、親から離れられない状態が続き、教室の中までも親の同伴を求めるケースもよく見られます。国際的な研究では、生涯有病率は約4%と報告されており、早期の介入が重要とされています[1]。この分離不安は小学校高学年や中学生といった思春期の不登校においても、心理的退行に伴って二次的に強まることもあります[2]。

 2. 社交不安障害

 社交不安障害は、他者から観察・評価される社会的状況に対する顕著な恐怖や不安を特徴とする精神疾患です。この障害では、人前で恥ずかしい思いをしたり、否定的に評価されたりすることへの強い懸念が中核症状となります。

 学校の場面では、授業中の発表や音読、給食時間の会話、休み時間の集団活動など、他者の注目を集める可能性のある状況で著しい不安が生じます。この不安は「間違えたら笑われるかもしれない」「変な人だと思われるかもしれない」といった否定的な自己評価と密接に結び付いており、しばしば動悸(どうき)、発汗、手の震え、声の震えといった身体症状を伴います。

 米国の大規模調査では、生涯有病率は女子で15.5%、男子で11.1%と報告されており[1]、特に思春期以降、対人関係の複雑さが増すにつれて症状が顕在化することが多く見られます。また、回避行動の結果として不登校に発展するケースも少なくありません。重要なのは、この障害は単なる「恥ずかしがり屋」や「内気」とは質的に異なり、本人の社会生活に重大な支障を来す深刻な状態であることを理解すべきであるという点です。

 3. 全般性不安障害

 全般性不安障害は、日常生活のさまざまな事柄に対して過度で制御困難な心配が持続する状態を指します。この障害の特徴は、心配が一つの対象や状況に限定されず、複数の領域にわたって持続的に存在することにあります。

 学校場面では、学業成績、試験の結果、提出物の完璧性、教師や友人との関係性、将来の進路など広範な事柄に対して過剰な心配を示します。例えば、「テストでは必ず満点を取らなければならない」「少しでも宿題に間違いがあってはいけない」「発表は完璧でなければならない」といった完璧主義的な思考に陥ることもあります。これらの心配は現実的な脅威の程度をはるかに超えており、安心を得ることが困難です。

 米国の研究では、9~13歳の子どもたちにおける有病率は女子2.4%、男子1%と報告されています[1]。注目すべき点として、この障害を持つ子どもたちは、しばしば「良い子」「真面目な子」として周囲から評価されるため、その苦悩が見過ごされやすい傾向にあることが挙げられます。過度の心配による精神的疲労や、完璧を求めるが故の課題着手の困難さから次第に登校への意欲が低下し、不登校に発展するケースも見られます。

パニック発作は突然の強い恐怖や強い不快感を特徴とし、動悸、発汗、震え、息苦しさなど身体症状を伴う(イメージ図)

パニック発作は突然の強い恐怖や強い不快感を特徴とし、動悸、発汗、震え、息苦しさなど身体症状を伴う(イメージ図)

 4. パニック障害

 パニック障害は、予期せぬ急激な不安発作(パニック発作)が繰り返し起こり、そのことへの強い不安や恐れが持続する状態を指します。かつては成人特有の障害と考えられていましたが、現在では児童・思春期でも発症することが明確に認識されています。

 パニック発作は、突然の強い恐怖や強い不快感を特徴とし、動悸、発汗、震え、息苦しさ、胸痛めまい、現実感の喪失といった身体症状を伴います。学校の場面では、授業中や休み時間、通学途中など、予期せぬタイミングでこれらの症状が出現します。パニック発作を一度経験した生徒は「また発作が起きるのではないか」という予期不安を抱き、発作が起きた(または起きそうな)場所や状況を回避するようになります。

 ドイツの研究では、思春期における有病率は約1%と報告されており、女子に多い傾向が認められています[1]。学校という場所でパニック発作を起こすことへの恐れから、保健室への頻繁な訪室や早退が増え、最終的に不登校に至るケースが少なくありません。また、パニック発作への恐怖から、電車やバスなどの公共交通機関の利用が困難になり、それが登校を妨げる要因となることもあります。

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