ひきこもり 家庭の医学

 ひきこもりとは「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6カ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」(厚生労働省)です。ひきこもりは学生から社会人まで幅広くみられます。中高生の不登校、大学生の五月病、就職の失敗や退職などに続いてひきこもることが多いようです。自分の部屋に籠城しているようなケースから家族とは必要最小限の会話はするといった状態までさまざまです。15~64歳のひきこもり当事者は推計約146万人といわれています(2022、内閣府)。最近では80代の親と50代のひきこもりの子供が社会から孤立化して生活している8050問題も指摘されています。
 本人側の問題として、対人関係の脆弱(ぜいじゃく)性がいわれています。ストレスのかかる人間関係がもちにくい、競争関係をいやがる、負けたくないという思いが強い、自分の力を客観的に見ることができないなどです。失敗を他人(親)のせいにしたり、成功した人をうらやむ傾向などもあるようです。
 生活面では自分の希望を通そうとし、家族が注意したり、従わなかったりすると、ことばやからだによる暴力にうったえることもあります。
 ひきこもりを扱う専門機関として、精神保健福祉センターなどの機関に設けられた「ひきこもり地域支援センター」があります。これは専門的な第一次相談窓口で、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士などのひきこもり支援コーディネーターが対応しています。ひきこもりには、統合失調症、うつ病(気分障害)、神経症性障害摂食障害などが背景にあることもあるので、一度は精神科に相談するのもいいかもしれません。これらの相談に際しては家族しか行けないことが多いようですが、ひきこもりの状況や本人の言動を聞くことで、おおよその見当がつき対処の方針は立てられます。しだいに本人を誘いだすような方策が立てられるでしょう。
 最近では、ひきこもりのケースを対象としたデイケアがすこしずつ始められるようになってきました。なお家庭内暴力のケースでは、強制的な入院がやむを得ずとられることがあります。そのような措置は緊急避難的なものとして考えておく必要があります。
 また、厚生労働省が開設したコミュニティサイト「ひきこもりVOICE STATION」も利用できます。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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