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口腔がんとは 【第4回】
口腔(こうくう)がんとは、口の中にできる悪性腫瘍のことを言います。主に、舌や上下の歯茎、口蓋(上顎の裏側)、口腔底(舌と下歯茎の間にある部位)、頬粘膜(頬の内側の粘膜)、口唇といった部位にできます。
ほとんどが扁平(へんぺい)上皮がんと言って、体の中の空洞を構成している粘膜組織から発生します。扁平上皮がんは、この他にのど、食道、気管、肺、外陰部などにできます。
口腔がんの最もできやすい部位は舌です。次いで下の歯茎、上の歯茎です。全身を含めた部位別では約4%を占めています。
◇症状と原因
症状としては粘膜のただれや違和感です。しこりを感じることもあります。必ずしも痛みがあるわけではありません。また、がんがある部位の出血も見られる場合もありますが、歯周病や虫歯から出ている可能性もあり、自己判別は困難です。
喫煙や飲酒がリスクファクター
その他、口内炎が同じ部位に2週間以上あり、しこりを伴うようであれば注意してください。口の中は、比較的目視しやすいため、ご自身によるセルフチェックも有効です。いずれにしても、いつもと違う感じがあれば、まず、かかりつけの歯科や耳鼻科を受診されることをお勧めします。
原因は、まだはっきり解明されてはいませんが、リスクファクターとして、他のがん同様に喫煙、飲酒が挙げられます。
その他、特徴的なファクターとして虫歯の放置や口腔内の清掃不良があります。虫歯の放置による粘膜への慢性刺激や細菌感染の刺激も影響します。
しばらく歯科医に通っていなければ、予防にもなりますので、受診することが他の疾患を含めたリスク軽減に役立つでしょう。
◇間違えやすい「できもの」
口の中には、さまざまな「できもの」が発生します。そのすべてががんではありません。良性腫瘍や炎症、骨の出っ張りなどを、がんと間違えてしまう場合もあります。
毎日、口の中を詳しく観察する習慣がないため、以前からあった正常組織をがんと思い込み、不安になってしまう「がん恐怖症」もあります。気になれば専門家に診てもらうだけでも安心材料になるでしょう。
その他、私たちが日常臨床で、がんかどうかの相談を受ける例に、歯の根の炎症があります。神経の治療をした歯の根にばい菌が付くと炎症を起こしてうみをためてしまいます。たまったうみは出口を探し、骨の薄い部分から歯茎の外に出ます。この出口は自然には消えず、歯茎が腫れた状態とうみの流出が持続し、がんと間違いやすくなります。
◇診断~治療
診断には、視診・触診に加え、細胞検査、病理検査、画僧診断(CT、MRIなど)などがあります。口腔がんが疑われた場合、診断の確定には病理検査が必要です。
病変の一部を採取して顕微鏡で細胞を調べます。この検査により、悪性かどうか、悪性でもどのような腫瘍なのかが詳しく分かります。その他、がん細胞が首のリンパ節転移を起こす可能性があるので、超音波検査(エコー)や、遠隔転移を調べるためのPET(陽電子放射断層撮影)-CT、内視鏡検査を用いることもあります。
治療は、手術療法、放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法を組み合わせます。腫瘍が小さくリンパ節を含め他臓器への転移がない場合、手術による切除、放射線治療、抗がん剤治療の、いずれか単独の対応で終わる場合もあります。
リンパ節への転移があれば、病変に加えリンパ節の切除手術もします。また、遠隔臓器への転移があれば、複数の科の医師がチームで治療に当たることもあります。
セルフチェックで気になれば受診を
がんの療養で大切なのは、治療が一段落しても厳重な経過観察をすることです。生活習慣で改善すべきことがあれば、それを見直せば再発防止に役立つでしょう。
◇セルフチェックを
早期であれば完治可能ながんです。前述したように、他臓器のがんよりセルフチェックが有効です。それによって少しでも気になる点があれば、医療機関への受診をお勧めします。
最後に、日本口腔外科学会の口腔がんのセルフチェック項目をご紹介します。参考にしてください。
【手順1】明るい光の下で、鏡を使って(入れ歯があれば外してください)。
・ 唇の内側と下顎の歯茎を見て、触ってください
・ 頭を後ろに傾けて、上顎の歯茎とその間を見て、触ってください
・ 頬の(裏側)の粘膜を見て、触ってください
・ 舌を前に出して、舌の両脇、舌と歯茎の間をよく見て、触ってください
・ 下顎から首にかけて触ってみてください
【手順2】よく観察し、チェックしましょう!
・ 白い斑点や赤い斑点はありませんか
・ 治りにくい口内炎や、出血しやすい傷はありませんか
・ 盛り上がったできものや固くなった所はありませんか
・ 顎の下と首の脇に腫れはありませんか
・ 食べたり飲みこんだりがスムーズにできますか (了)
角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。
(2025/02/06 05:00)
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