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ピロリ菌、さまざまな病気の原因に
~胃がんリスク高く~ 【第4回】

 多くの病気と関わりがあるとも言われる「ピロリ菌」。皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。診断・治療には内視鏡が役立ちます。

ピロリ菌(出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK2452/figure/A556/?report=objectonly)

ピロリ菌(出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK2452/figure/A556/?report=objectonly)

 ◇胃の中で生存可能

 ピロリ菌の正しい名前はHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)で、日本語で「胃の幽門(出口部分)にいるらせん菌」という意味になります。ピロリ菌にはべん毛と呼ばれる4~8本の毛が生えており、泳ぐように動くことが可能です[1]。

 1979年、オーストラリアのウォーレン医師はマーシャル医師と共に胃炎の研究を始め、ピロリ菌と思われる菌を発見します。マーシャル氏が菌を自分で飲み込んでみたところ、胃の中で生き続け、胃炎を起こすことが確認・証明されました[2]。

 私たちの胃の中では胃酸が分泌されており、細菌は生きていけません。しかし、ピロリ菌はウレアーゼという特殊な酵素を出してアンモニアを産生し、胃酸を中和します。この結果、ピロリ菌の周囲は中性になり、胃の中でも生きられるわけです。

 ◇幼少期に親から感染か

 下水道が発達していなかった時代には井戸水などを飲むことで胃の中にピロリ菌が入ってくるケースが多かったのですが、現在では保菌者の唾液などを介した感染が中心とされます。特に、幼少期に母親から感染する可能性が指摘されており、食べ物の口移しなどが理由として考えられています[3]。

 ピロリ菌に感染しても全員が胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんになるわけではありません。しかし、感染者の多くは胃炎を起こし、他にも胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープ、機能性ディスペプシア、胃食道逆流症、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血といったさまざまな病気の原因となります。じんましんパーキンソン病アルツハイマー病糖尿病との関連も疑われており、感染した場合には除菌を強くお勧めします。

 ◇主な診断方法

 ピロリ菌の感染を判断する検査は主に次の三つです。

 1. 直接検査

 直接検査の方法は三つあります。

 (1)培養検査:内視鏡を挿入し、胃の粘膜をつまんでピロリ菌の有無を調べる。除菌する際に使われる抗生物質のクラリスロマイシンが効果的かどうかも同時に調べられる。

 (2)鏡検法:採取した胃粘膜組織を顕微鏡で観察し、菌が存在するかを確認する。

 (3)ふん便中抗原測定:便に排出されたピロリ菌を調べる。

 2. 酵素反応を活用

 ウレアーゼ反応を利用する検査方法は二つです。

 (1)ラピッドウレアーゼテスト(RUT):内視鏡検査で採取した胃粘膜組織を試薬で反応させ、ピロリ菌が産生するアンモニアを検出する。

 (2)尿素呼気試験(UBT):ピロリ菌に感染すると、胃の中の尿素がウレアーゼによってアンモニアと二酸化炭素に分解される。患者に尿素を含む検査液を飲んでもらい、前後の呼気を調べて感染を診断する。

 3. 抗体測定

 抗体測定法と呼ばれ、血液中の抗体を直接調べる方法と尿中の抗体を調べる方法があります。

 ◇薬3種で除菌

 ピロリ菌の除去には、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬と、アモキシシリン、クラリスロマイシンという2種類の抗生物質を組み合わせた3種の薬が使われます。3種を1週間服用すると、7割の患者さんが除菌に成功すると言われています。

 除菌療法に伴う主な副作用は下痢や軟便で、10〜30%程度の患者さんに起こります。そのほかの副作用は味覚異常、舌炎、口内炎(各5〜15%)、発疹(2〜5%)などです。除菌に使用する抗菌剤、特にペニシリンにアレルギーのある人は薬剤を変更しますので医師に相談してください[4]。

 効果の判定は、ふん便抗原測定や尿素呼気試験で行います。1回目の除菌に失敗した場合は抗生物質を変更して再度行います。8~9割の症例で除菌に成功しています。成功した後に再びピロリ菌に感染する可能性は2%程度です。

 ◇リスク残存、定期検査を

 ピロリ菌に感染すると、85歳までに胃がんになる確率は男性で17.0%、女性で7.7%と推定され、除菌療法によって胃がんの発生リスクは50〜70%程度減少するとされています[5][6]。しかし、一度も感染した経験のない人の胃がん発生率(男性1.0%、女性0.5%)と比べるとリスクは高く、除菌後に発見される「除菌後胃がん」の存在も問題となっています[7]。腸上皮化成と呼ばれる胃粘膜のただれがある人は胃がんに変化する可能性が特に高く、ピロリ菌の除去後であっても定期的に胃部内視鏡検査を受けてください。

 1960年代をピークに胃がんによる死亡率は下がり続けていますが、依然として高いことに変わりありません。また、ピロリ菌を除菌できたとしても胃がんの発生リスクが無くなるわけではなく、生涯にわたって注意が必要です。定期的な内視鏡検査を受け、胃粘膜の様子をフォローしましょう。(了)

高木院長

高木院長


高木謙太郎(たかぎ・けんたろう)
 2007年東京慈恵会医科大学卒。同大学付属柏病院、東京都立墨東病院、東京都保健医療公社豊島病院などを経て22年5月に四谷内科・内視鏡クリニック(新宿区)を開業。「胃がん大腸がんで亡くなる人をゼロに」をミッションに、人と人のつながりを大切にした、専門的で高度な医療を提供している。


【参照】
1. Helicobacter pylori: Physiology and Genetics. Mobley HLT, Mendz GL, Hazell SL, editors. Washington (DC): ASM Press; 2001. Chapter 6, Morphology and Ultrastructure

2. Marshall BJ, Warren JR. Unidentified curved bacilli in the stomach of patients with gastritis and peptic ulceration. Lancet. 1984 Jun 16;1(8390):1311-5.

3. Weyermann M,et.al. Acquisition of Helicobacter pylori infection in early childhood: independent contributions of infected mothers, fathers, and siblings. Am J Gastroenterol. 2009 Jan;104(1):182-9.

4. 日本ヘリコバクター学会:H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版
http://www.jshr.jp/pdf/journal/guideline2016.pdf

5. Kawai S, et.al. Lifetime incidence risk for gastric cancer in the Helicobacter pylori-infected and uninfected population in Japan: A Monte Carlo simulation study. Int J Cancer. 2022 Jan 1;150(1):18-27.

6. Ford AC, et.al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer: systematic review and meta-analysis. Gut. 2020 Dec;69(12):2113-2121.

7. Takeuchi C, Yet. al. Precancerous nature of intestinal metaplasia with increased chance of conversion and accelerated DNA methylation. Gut. 2024 Jan 5;73(2):255-267.

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