医師にかかる際の用意 家庭の医学

 現在の医療体制下では、はやっている医院や大病院などでは、2時間待ちの3分診療といわれているように、必ずしも理想的な診療がおこなわれているわけではありません。
 したがって患者さんも要領よく、自分が医師になにを診てもらいたいのか、なにに不安を感じているのかを明確に伝えることが重要です。ささえあい医療人権センターCOMLは、「新・医者にかかる10箇条」を公開しています。その10箇条に沿いながら説明していきましょう。

■新・医者にかかる10箇条
1.伝えたいことはメモして準備
 忙しいドクターに、自分の状態を的確に、しかも早く診断を下してもらうためには、現在の状況をメモにまとめて伝えると、スムーズにことが運びます。ただし、長すぎるメモは逆効果です。おもなことだけをメモして、あとは医師に聞き出してもらうのが結局は早道です。

2.対話のはじまりはあいさつから
 医師と患者がお互いあいさつを交わすことから、双方向の人間関係が生まれます。

3.よりよい関係づくりはあなたにも責任が
 医師が真摯(しんし)に対応してくれるとき、患者側が医師に敬意を払って接することも大事です。医師の気分を害する言動は双方にとって、いいことはありません。双方の信頼関係が大切です。

4.自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
 ①いつから、②どんなときに、③どのような異常が生じており、④どのくらいの時間が経過し、⑤それがどの程度たびたび起こるのか、⑥そのことに関してどのような不安を抱いているのかなど、ありのままを伝えましょう。

5.これからの見通しを聞きましょう
 どのような治療をすると、どのくらいの期間で、どうなるのかなどを、正しく理解することは、自己決定するうえで必要です。

6.その後の変化も伝える努力を
 よくなったか、わるくなったか、あるいは別のことが生じたかは、重要な治療のしるべとなります。

7.大事なことはメモをとって確認
 医師に質問して得た回答は、忘れないようにメモしましょう。

8.納得できないときは何度も質問を
 理解できていないのに、わかったふりをすることは、コミュニケーションエラーのもとになって禁物です。

9.医療にも不確実なことや限界がある
 医療に、“絶対”や“完璧”を求めることはできません。期待どおりにならずとも、納得して受け入れることも、ときには必要です。

10.治療方法を決めるのはあなたです
 治療方法が複数ある場合は、それぞれの利益・不利益をたずね、十分に理解したうえで、最後は自分の価値観で自己決定しましょう。

■身体診察は重要な手段
 問診のあとの身体診察も重要な手段です。身体診察は、基本的には頭のてっぺんから足のつま先まで観察することが基本です。したがって、衣服を脱いで診察衣に着替え、プライバシーの保たれた個室で、時間をかけて医師に専門的な身体チェックを受けることが理想です。欧米ではそのような身体診察が一般的になっています。
 しかし、わが国では、場所・時間・看護師の介助などの環境が不十分なため、通常短時間でごく部分的な診察しかおこなわれていないのが現状です。患者さんもそれがふつうのように考え、裸になることや身体診察をきらう人さえ出てくる始末です。
 この点は、医師・患者さんともに、医療の本来あるべき姿はなにかを率直に考え直すべきと思います。患者の心構えとしては、進んで医師に身体診察をおこなってもらう気持ちをもって、受診していただきたいわけです。

■カスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)
 パワーハラスメント(パワハラ)の一種であるカスタマーハラスメントが、最近注目されています。特に医療現場においては、看護師が外来や病室などで精神的、身体的な攻撃や性的な言動(ペイシェントハラスメント)を患者や家族から過去1年に多く受けたという日本看護協会の調査があります。患者やその家族などからの暴言や暴力などが原因で、休職や離職を余儀なくされるケースもまれではありません。新型コロナウイルス感染症に関連して、医療従事者がいわれのない誹謗中傷にさらされるなど、カスタマーハラスメントの問題はより深刻さを増しています。
 医療機関は、それなりの対策を講じてはいますが、医療は患者と医療者の信頼関係のうえで初めて成り立つということも、医療を受ける側は知っておく必要があります。信頼関係が成立しない場合は、医療機関が患者に対して診療を拒否することも是認されるというのが公の見解です。