かかりつけ医をもとう 家庭の医学

 みなさんは、自分自身や家族の健康についての問題を相談できる身近な医師(かかりつけ医〈ホームドクター〉)をもっていますか。2020年の日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の調査では、2017年と変化なく、かかりつけ医がいる人は全体では55.2%で、高齢の人ほどその割合が高く、70歳以上では83.4%ですが、40歳代では44.5%にとどまっています。

■かかりつけ医が必要な理由
 かかりつけ医を誰もがもつようにと薦めるのはなぜでしょうか。日常的に医学管理して、重症化を予防するうえで、もっとも効果的だからです。どんな名医あるいは高度な検査機器を有する大病院よりも、長年のつきあいがあり、過去において自分や家族になにがあったかをよく知っている医師のほうが、なにか問題があったときに、適切な判断をしてくれます。そして必要なときに専門医療機関等との連携が円滑におこなわれます。個々の問題に対してその地域でもっとも適切な医療機関を紹介し、専門家どうしの間で必要な情報を伝達してくれます。一般医が医療の門番あるいは水先案内人(ゲートキーパー)となり、専門医と役割分担すれば、医療にかかるコストも少なくてすみます。超高齢社会では、在宅療養支援や介護との連携は、地域に密着した医療機関の重要な役割でもあります。
■かかりつけ医は1人、複数?
 ゲートキーパーというと、身近な医院、診療所のある特定の1人の医師を想像します。しかし、医療がフリーアクセスのわが国では、かかりつけ医が2人以上いたり、病院の医師だったりする人がおおよそ3割ほどいます。若いうちは病院で専門医として経験を積み、ある年齢に達すると開業して地域のかかりつけ医となるのが、医師のキャリアとして一般的です。そのため、患者さんのなかには「診療科ごとのかかりつけ医」をもっているという人も少なくありません。また「複数主治医制」といって、病院と診療所あるいは診療所同士で連携しつつ、1人の患者さんをフォローすることも薦められています。
 国は、かかりつけ医制度を「ゆるやかなゲートキーパー機能」として定着させるために、「総合診療医」の増加や保険診療上の誘導をおこなおうとしています。その際、フリーアクセスと医療経済が合理的にバランスを保つ体制にしておかなければなりません。

■かかりつけ医の制度化へ
 本格的な超高齢化・人口減少社会の到来を目前に控え、持続可能な医療制度の構築の一つの柱として、「かかりつけ医」をこれまでのように概念のみでなく制度化することが決定しました。コロナ禍で発熱患者が身近の一般医療機関に受診できない事例が相次いだことも制度化することを後押ししました。かかりつけ医の機能を「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談を行う」などと医療法に明記し、各医療機関は「休日・夜間診療を実施」「どのような病気に対応できるか」「他の医療機関と連携」などの情報を都道府県のウェブサイトで公開する制度を2025年度までに開始する予定です。さらに継続的管理が必要な慢性疾患をもつ高齢者が希望する場合、「医療機関がかかりつけ医機能として提供する医療の内容について、書面交付などを通じて説明する」方針です。
 要件を満たした医療機関の「認定」や患者が事前に医療機関に「登録」する制度は、関係団体間で同意できずに見送られましたが、今回の結果をもとに引き続き活発な議論がおこなわれると思われます。

■紹介状をもって専門医を受診
 かかりつけ医が担当の患者さんの診断や治療上必要と判断して、あるいは患者さん自身が希望して、ほかの医療機関の専門医などを受診するとき、必要なのが紹介状です。正式には「診療情報提供書」といいます。紹介状は、患者さんの症状や病歴、既往歴、家族歴、検査結果、投薬内容などが記載されており、かかりつけ医と他の医療機関が連携をはかるうえで、これがあるのとないのとでは大きな違いがあります。紹介状があると、ポイントとなる情報が的確に紹介先に伝わるため、その患者さんに適した検査・治療を受けられ、検査の重複を避けられ費用の節約になります。特に大きな総合病院を受診する際は、紹介状がないと、病院によっては、「選定療養費」として数千円の自己負担が発生することがあります。紹介状をもって病院をはじめて受診する際は、紹介状を持参していることを病院の受付に最初に申し出てください。
 紹介先の医療機関で検査や治療が終了したあとは、かかりつけ医がふたたび患者さんの診療を継続することが普通です。このときも病院からかかりつけ医に診療情報提供書が渡されます。これを「逆紹介」といいます。この「紹介―逆紹介」の制度は、フリーアクセスの弊害である大病院への患者の集中を防ぎ、 かかりつけ医体制の定着をはかることを意図したものです。このような動きは、今後も強化されるでしょう。

■かかりつけ医は高齢者に特に必要
 高齢の患者さんは、血管や臓器の老化で機能不全や障害が生じ、いくつもの傷害や疾病をもっていることが多いので、そのすべてを総合的に診てくれる医師はたいへん重要です。
 家庭での看護や介護が必要になったときも、「かかりつけ医」は大きな力になります。かかりつけ医のなかには、在宅医療を目指している医師も多く、必要なときに往診してくれます。訪問看護、在宅看護を中心に協力してくれる看護師さんも多くいるので、そうした看護師さんを派遣してくれます。
 高齢者はしばしば、「医療」と同時に生活を支えてくれる「介護」も必須になります。ホームヘルパー、デイケア(デイサービス)、ショートステイ、介護施設入所などのさまざまな介護サービスが現在では受けられます。介護保険を受けるには「かかりつけ医」の意見書が必要です。医療と介護を繋げる、かかりつけ医を中心とした地域医療連携である「地域包括ケア」がこれからのわが国の目指すべきイメージです。

■往診と訪問診療
 急病で救急車を呼ぶほどでもなく、通院できない事情があるとき、かかりつけ医に診察に来てもらうのが「往診」です。最近は、「ビル診(賃貸ビルの診療所)」など、「かかりつけ医」が診療所から離れて居住している場合も多く、昔ほど往診はさかんではなくなりました。いっぽう、高齢者の療養的な入院が制約されている今日、自宅や施設などで、計画的に医療サービスを提供することを「訪問診療」といいます。病院の代わりに在宅で、医療、看護、介護、リハビリなど多職種がかかわり、24時間協働体制で療養をサポートする制度といえます。今後の「かかりつけ医」が果たすべき役割ともいえます。

■オンライン診療
 「オンライン診療(遠隔診療)」とは、パソコンやタブレット、スマートフォンを用いて診察や処方箋の交付を受けられる診療です。これに対し、医療機関に足を運んで受診する従来の方法を「対面診療」といいます。「オンライン診療」は、2018年保険導入されましたが、あくまでも対面診療の補完として位置づけられているため、ほとんど普及していませんでした。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行が「オンライン診療」を拡大する契機となりました。時を同じくして高まったデジタル化推進の機運がさらにこの動きを加速させています。
 原則は、かかりつけ医による降圧薬など定期の処方や随時の風邪薬の処方など、必ずしも対面診療でなくてもよい再診患者がオンライン診療の対象とされています。しかし、初診であっても、医師が必要とする診療情報が得られると判断される場合は、オンライン診療を認めることになりました。どのようなケースがそれに該当するかなどは、各学会の診療ガイドラインなどで詳細を今後つめることになっています(2022年1月:オンライン診療の適切な実施に関する指針;厚生労働省 )。
 オンラインショッピングとは異なり、オンライン診療は、患者・国民のほとんどが医療・医学に関する知識を十分にはもちあわせていないなかで、偽医師や“バッドドクター”などに遭遇するリスクがあり、さらにはITのセキュリティー上のリスクも考えられ、それらの問題を一つ一つ検証しながら徐々に拡大していくものと思われます。

■望ましいかかりつけ医とは
 では、どんな医師がかかりつけ医として望ましいのでしょうか。患者の立場からみた理想像は、「よく説明してくれて、親身になって自分のことをケアしてくれる有能な医師」ということにつきると思います。
 次のような点がチェックポイントになると思います。

1.患者を対等の立場で遇してくれる
 「患者さんは黙って自分についてくればよい」といった姿勢は、「医療不信」が声高に叫ばれる今日、もはや通用しないと考えられるようになりました。患者と医師の関係を、いわば「“依頼人”と“請負人”」関係としてとらえようとするわけです。

2.よく病状を聞き、身体診察をしてくれる
 問診と身体診察は医学の基本で、病気の多くは半分以上これで診断できます。また上手な問診・診察は、次にどのような検査をすべきかをもっとも効率よく選択することを可能にしてくれるのです。
 同時に、患者さんからみてくわしく自分を診てくれる医師には信頼度や親近感がぐっと上がります。話もろくに聞かずに、からだにもさわらないですぐに検査をしたり、薬を投与する医師は望ましくありません。

3.丁寧な紹介状を書いてくれる
 最近は病診連携(病院と診療所の連携プレー)があたり前のようになっており、患者さんを自分のところに囲い込んでしまう医師はほとんどいなくなりました。
 保険医療体制も病院や診療所間で患者さんの紹介・逆紹介を促進するしくみをつくっています(前述)。その際、重要なことは、紹介状にくわしい病状を書いて、できるだけ多くの情報を伝えようと努力しているかどうかです。
 丁寧な紹介状を書いてくれる医師は、患者さんの頼りになると考えてよいでしょう。相当の患者情報をもっているはずなのに自分の名刺1枚の裏に1、2行書いたものだけを渡されるような場合は、信頼に足る「かかりつけ医」とはいえません。

4.転院したあともたずねてくれる
 有能な医師は自分の診たてや治療の結果を見届けて、その患者さんに責任をもつと同時に、その経験を次に生かすことによって自分の技能を発展させようとするものです。紹介先の病院に入院したあとも、病室に見舞ってくれたり、しばらくごぶさたしていると消息を聞いてくれる医師は、まさによき「かかりつけ医」の資質を備えています。