腰の痛み 家庭の医学

 腰痛の原因としては、腰部の筋肉・骨格系の病変がもっとも多いものです。若年層の代表的な腰痛疾患としては、男女ともに急性筋肉性腰痛(ぎっくり腰)と腰部椎間板(ついかんばん)ヘルニアがあげられます。
 どちらも重いものを持ち上げたり、急にからだをひねったりした直後に急激な腰痛をうったえ、ときにはそのまま寝込んでしまう疾患です。
 中高年層になるとこの2つに加えて、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による腰椎圧迫骨折や腰椎の変形、変性疾患である変形性腰痛症や腰椎すべり症なども増加してきます(腰痛症)。特に骨粗鬆症は閉経後女性によくみられ、人口の高齢化に伴う骨粗鬆症の増加は各先進国において保健行政上の大きな問題となっています。
 生活に支障をきたすほどではない軽度の腰痛は健康な人にもしばしば生じます。これは、直立歩行をおこなう人間ではどうしても腰部の骨格、筋肉に過大な負担がかかるからです。そのため、急激な体重の増加、過度の労働や運動、加齢や臥床(がしょう)による筋力の低下はすべて腰痛の原因となります。
 特に妊娠のため体重増加と体型の変化を余儀なくされる妊婦は、腰痛に悩む場合が多いようです。ただし、筋肉・骨格系の病変のみが腰椎の原因になるわけではありません。腹部の内臓疾患でも関連痛により、腰痛が生じます。
 産婦人科疾患では子宮筋腫子宮内膜症、卵巣腫瘍、子宮・卵管・卵巣の炎症などがその例です。
 しかし、これらの疾患では一般に腹痛、発熱などが主症状となり、腰痛は随伴症状となることが多いようです。子宮や卵巣の悪性腫瘍が骨に転移したり、尿管が閉塞されて水腎症をひき起こしたりすると、単独の症状として腰痛が生じますが、これはがんがかなりの程度まで進行した場合です。
 したがって、腰痛が主症状の場合はまず整形外科を受診してください。最近は、婦人科でも骨粗鬆症の診断・治療を積極的におこなっていますが、すでに骨折が生じている場合などは、当然ながらまず整形外科的治療が優先されます。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 准教授〔分子細胞生殖医学〕 平池 修)