性器出血の異常 家庭の医学

 月経と分娩(ぶんべん)後の悪露(おろ)以外の性器出血はすべて異常な出血で、不正出血と呼ばれます。これには子宮や腟(ちつ)の病変が原因で生じる器質性出血と、ホルモンの異常に子宮が反応して生じる機能性出血、妊娠時のなんらかの異常によって生じる産科出血があります。性成熟期(生殖可能年齢)女性に起きる子宮からの出血は、異常子宮出血(abnormal uterine bleeding:AUB)と呼ばれるようになりました。
 器質性出血としては、腟や外陰(がいいん)の炎症や外傷(性交によるものが多い)による出血、尿道カルンケル、子宮腟部びらん子宮頸管(けいかん)ポリープ子宮頸がんによる子宮頸部からの出血、子宮筋腫・子宮内膜ポリープ・子宮体がん・子宮体部悪性腫瘍などによる子宮体部からの出血があります。一般的には器質性出血は治療対象であり、原因を除去することが必要です。
 機能性出血は、性成熟期女性の不正出血の原因として多くみられます。
 子宮内膜は卵巣周期に従った周期的変化をいとなんでいます。具体的には、卵胞(らんぽう)期に分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)によって増殖し、黄体(おうたい)期に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)により分泌能が発現しています。両ホルモンが血中より消退すると、子宮内膜は剥脱(はくだつ)し月経となります。無排卵症や更年期などで卵巣機能の低下が生じると、子宮内膜は発育不全に伴う剥脱が起こり、不正出血になります。
 卵巣機能が正常な人でも、排卵期のようにホルモン分泌が大きく変動する時期には、排卵期出血(中間期出血)と呼ばれる不正出血が観察されることがあります。機能性出血の多くは少量で、また数日で止血しますが、量の多い場合や1週間以上続く場合は失血性貧血になる危険がありますので、治療が必要です。治療としては鉄剤投与とホルモン剤内服が一般的です。
 問題は器質性出血と機能性出血が、症状だけでは鑑別できないことです。おおまかにいえば、①性成熟期の女性で、②出血以外の症状がなく、③最近1年間にがん検診を含む婦人科検診を受けていて、子宮筋腫、頸管ポリープ、子宮頸がんなどの器質性疾患が指摘されていない、④妊娠の可能性がない、のすべてに該当する場合は、機能性出血の可能性が高いといえます。しかし、前記の項目に該当しない人や、該当しても出血量・出血の頻度の高い場合は産婦人科を受診してください。特に女性の性意識の変化とともに、近年では若年女性にクラミジア頸管炎や尖圭(せんけい)コンジローマなどの性感染症や子宮頸部異形成・子宮頸がん(性交渉によるパピローマウイルス感染が原因となります)の急増が指摘されていることには十分留意する必要があります。
 機能性出血が発生しない閉経後の人の出血はすべて器質性出血と考えられます。頻度からは、萎縮(いしゅく)性腟炎・萎縮性外陰炎(エストロゲン不足から生じるもので老人性腟炎・老人性外陰炎とも呼ばれます)が多いのですが、子宮体がん・頸がん・外陰がんなどの悪性病変による出血もあり、鑑別が必要です。
 産科出血としては、妊娠初期には進行流産、切迫流産(流産)、異所性(子宮外)妊娠胞状奇胎(ほうじょうきたい)などが、後期には切迫早産・前置胎盤などが代表的なものです。また、前記の器質性疾患が妊娠に合併していることがあります。産後にも出血がみられることがあり、胎盤の一部が遺残することで生じる妊娠産物遺残(RPOC:retained products of conception)と呼ばれます。以前の胎盤遺残、胎盤ポリープといわれていた病態を総称的にあらわします。一般に、産科出血はすべて治療の対象になると考えておくべきです。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 准教授〔分子細胞生殖医学〕 平池 修)