性交疼痛症、不感症〔せいこうとうつうしょう、ふかんしょう〕 家庭の医学

 性行為に関係する不快な症状は、一般に性障害と呼ばれます。このうち、性交時の痛みのため性交が困難となるのが性交疼痛症、性欲があるにもかかわらず、性交時に性的快感を得られない状態が不感症です。
 性交疼痛症には、器質性と機能性の2種類があります。
 器質性疾患(器官・臓器の病変が原因で生じる疾患)の一つの症状として出現するのが、器質性性交疼痛症です。病原微生物による外陰炎・バルトリン腺膿瘍(のうよう)、腟(ちつ)炎・子宮内膜炎・骨盤腹膜炎などの感染症は、性経験のある女性ならどの年齢層にも発症し、性交疼痛症の原因疾患となります。年齢層別に特徴的な原因疾患としては、若年層では処女膜強靱・腟狭窄などの先天性の疾患、青壮年層では子宮筋腫子宮内膜症・卵巣腫瘍などの腫瘍・類腫瘍性疾患、分娩(ぶんべん)時の腟・会陰(えいん)裂傷や会陰切開の瘢痕(はんこん)、下腹部開腹手術や腟式手術の瘢痕、中高年層ではエストロゲン不足による萎縮性腟炎や外陰炎が主要なものです。
 いっぽう、器質性疾患がないのに生じるものが機能性性交疼痛症です。大部分は性行為一般やパートナーへの不安・嫌悪、本人のうつ状態など心理的・精神的問題が原因となっています。
 器質性性交疼痛症の多くは治療により解決し、なかには原因がわかるだけで症状が軽快することもあります。したがって、性交疼痛症にお悩みの場合はまず婦人科を受診してください。機能性性交疼痛症の治療には、器質性疾患がないことについての婦人科医の説明、性行為への本人の理解(性行為が不潔なものでないことなど)、パートナーの協力が大切です。それでも改善されない場合は、精神科医や心理療法士による精神・心理療法が必要となります。
 不感症については、やや「通俗的な概念」が先行している感があります。医学的には女性の性的快感の正常域などについての具体的データはまったくなく、不感症の診断基準すら明確でないからです。ただし、生活に影響を与えるレベルの重症なものは、機能性性交疼痛症とほぼ同様と考えてよいでしょう。

(執筆・監修:千葉大学大学院医学研究院 教授〔生殖医学〕 甲賀 かをり)
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